NHK「プロフェッショナル」の魅力…番組プロデューサーに聞く

[ 2010年3月8日 08:39 ]

熱く語る有吉チーフプロデューサー

 NHKのドキュメンタリー番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」(総合テレビ・毎週火曜午後10時)は「仕事」をテーマに、その道に情熱を燃やし、人生をかけて挑んでいる人物に密着し、それぞれのプロとしての"流儀"を伝えてきた。06年1月に放送がスタートし、今年1月で放送開始から5年目に突入。1人のプロの素顔に迫る制作の舞台裏や、米大リーグ、シアトル・マリナーズのイチロー外野手、アニメ映画界のヒットメーカー・宮崎駿監督ら“プロ中のプロ”という評価を得ている人物の知られざるエピソードなど、番組の魅力を有吉伸人チーフプロデューサー(47)に聞いた。

 「基本的に喜んでテレビに出る人じゃない人を取り上げたい。テレビに出て自分をPRするよりも、目の前の仕事をやることが大事だと思ってる人のほうが、素敵じゃないですか。とにかく本物の人を見つけて紹介したい」。

 テレビ?知らねぇーな、そんなの、という人間を見つけることが、番組作りの始まり――。人気を博した「プロジェクトX」にも立ち上げから関わり、長年ドキュメンタリー畑を歩んできたベテランプロデューサーは、テレビに関わる人間でありながら、自分の仕事と真逆の立ち位置の人物にこそ魅力を感じている。

 「有名なこと、メジャーなことをした人ももちろん中にはいます。その半面、人知れずやってる凄い人もいっぱいいる。そういう人を探してくることが大切。だから、自ずとテレビに出たい人よりも、“できればテレビに出たくないんだけど、そこまで興味をもってもらえるなら仕方ないね”と言っていただける人のほうが結果として、いいものができる気がする」。

 もともとテレビなんて…という人間が主役になるケースが多い番組。制作サイドの都合など一切お構いなしも驚くべきことではない。

 「相手は一流の人たちだから、“こう作ろう”と思っていくと見抜かれる。この人たちはオレのことをあらかじめあるストーリーに(自分を)あてはめようとしているなって思われたらもうダメですね。ただ、ありのままに撮って、ありのまま撮れたもので構成する。それが当たり前のこと。とにかく、現場でなにかを見つけてくる」。

 制作側の都合、こうすれば視聴者にウケがいい的な番組が目立つ昨今。筋書きのないドラマ(ドキュメント)はなかなか目にすることはできないのか。テレビがつまらない、という人も「プロフェッショナル」は面白いという声をよく聞く。「ありのまま」という無添加の方向性が、一流から何かを学びたい、共感したいという思いを少なからず抱いている視聴者のピュアな魂を揺さぶる。ヘタな脚色はいらない。

 予測不能、見通しが立たない、マイペース…。取材者泣かせもいいところだ。一方で、だからこそ予定調和ではない思わぬ結末、スリリングでビクビクしてしまうにもかかわらず、同時に感じるワクワクする気持ちが画面からにじみ出てくる。有吉チーフプロデューサーは言う。「何が起きるかわからないのがドキュメンタリー。右も左もわからないけどガムシャラにやってるほうが結果的に面白いものが撮れることがよくある」。

 ロケ中は“真剣勝負”が続く。取材班に企画会議は存在しない。シナリオが全くないわけだ。ドキュメンタリー撮影未経験のディレクターでも「この人を撮りたい」と相談してくれば、有吉チーフプロデューサーは事実関係の確認を済ませる程度でそのまま送り出す。無謀なようだが、これが彼らの“流儀”である。

 ディレクターは20代、30代の若手ばかり。若さ、正直に言ってしまえば経験のなさ、無鉄砲…。それが大きな武器になることがしばしばある。「技量が上がれば上がるほど、あの場面とあの場面が撮れたら、番組が形になるなとわかるようになり、手際がよくなってくる。すると、番組のクオリティは平均的に上がっていくけど、とんでもなく意外なものを撮れたりっていうのは逆に少なくなってくる傾向にある。いろんな状況がある中、若いディレクターと組んだのは結果的に正解だったと思う」。

 野菜やくだものではないが、形は不恰好でも要は視聴者がかじった(=番組を見た)時、「おいしい」と感じることが大切であって、制作者側の意図がミエミエの番組ならこれまで続いてはこられなかっただろう。

 代表例が08年1月2日に特番として放送したイチローの回だった。「あれは撮ろうと思って撮れるものではない。ドキュメンタリーの醍醐味ですよね」と有吉チーフプロデューサーの言葉に熱がこもった。(つづく)

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