【内田雅也の広角追球】侍たちの「お茶たて」ポーズは日本野球の神髄か 茶道にあるスポーツの極意

[ 2026年3月13日 21:00 ]

WBC1次ラウンド・台湾戦の2回、満塁弾を放ち、お茶たてポーズでする大谷(6日・東京ドーム)
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 ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)日本代表が安打や本塁打を放った時に行う「お茶たて」ポーズを見たとき、思ったことがある。茶道と日本野球についての考察と言えるだろうか。

 野球部員だった高校時代、将棋部や茶道部の同級生が「練習がしんどい」と言うのが、とても信じられなかった。投手の坂道ダッシュや野手の個人ノックを受けてみろと毒を吐いたりもした。

 今はわかる気がする。秒に追われながら最善手を見つける将棋部の練習は相当に頭が疲れたことだろう。「形」にこだわる茶道部の稽古は心身ともに疲れ果てるはずだ。

 スポーツについての著作も多い作家・評論家、虫明亜呂無(むしあけ・あろむ)が先代(15代)千宗室の点前を間近で見た光景を書いている。1968(昭和43)年刊行の『スポーツ人間学』(毎日新聞社)にある。

 京都・裏千家にある茶室「咄々斎(とつとつさい)」。夏真っ盛りの8月、千宗室は全国から集まった婦人約20人に丹念に厳しく指導していた。

 <選ばれて教えられる緊張と興奮と動揺からであろう、ぼくがみていてもはっきりわかるが、身体のコントロールを失ってミスをくりかえした>。さらに<婦人たちが晴れの講習会に用意した晴着は、みるまに、じっとりと汗を背にわたらせる。一レッスンが終わると、彼女たちは、ほとんど蒼白(そうはく)となって、室のはずれにひきさがり、肩でよわった呼吸をからくもとりもどしていた>。

 千宗室は<すべては膝と腰のバネの力だ>と言ったそうだ。<膝のバネがきいて、腹筋をつねに正しく垂直にたもち、畳から吸収した力を全身にくまなく伝達していく作業をくりかえすのである。茶の要諦であろう>。

 まるで投手や打者が足もとの地面反力からパワーを得るような、全身運動ではないか。

 今の16代・千宗室が「ひと点前(てまえ)するのに何十時間、何百時間稽古してきたことか」と話している。下柳剛が引退後の2014年に出した著書『ボディ・ブレイン』(水王舎)にある。「若い頃から膝のすね毛が擦り切れるくらい正座して、稽古をしてきたから、今このひと点前ができるわけです」

 映画にもなった森下典子『日日是好日』(新調文庫)に「お茶はねえ、まず形たのよ」「稽古は回数なのよ」という「先生」の言葉がある。実に細かで多くの手順があるが「考えるな」と言う。稽古を積んだうえで「頭で考えない。手が知っているんだから、手に聞いてごらんなさい」。すると、スイスイとお点前ができた。「自分の手を信じなさい」というわけだ。

 千利休は「稽古とは一より習い、十を知り、十よりかえる、もとのその一」と説いた。経験を重ね、新たな視点に立って、絶えず精進し続ける。反復練習こそが実を結ぶ極意となる。それは野球も同じだろう。つまり、茶道はスポーツなのだ。それも実に日本的なスポーツなのだ。

 侍ジャパンの「お茶たて」は大谷翔平(ドジャース)からポーズを考えるように「むちゃぶり」された北山亘基(日本ハム)の発案だった。当初はお茶を飲むポーズだったが、選手たちから「ダメ出し」を食らい、茶せんでかき混ぜて泡立てる「お茶をたてる」ポーズに変えた。ちなみに北山は本場・京都の出身である。

 このポーズでかつて「ラミちゃん」ことアレックス・ラミレスが巨人時代の2009年に行った「ラミ茶パフォーマンス」に似ている。ラミレスは「自分には日本人の血が流れている気がする」と話すほどの親日家で「和の心をとり入れたかった」と話していた。

 1次ラウンドを突破し、米マイアミ入りした日本代表は15日(現地時間14日)、準々決勝でラミレスの母国、ベネズエラと対戦する。

 侍たちがそろって「お茶たて」する光景はどこか稚気めいてはいるが、チームの一体感を醸成するのに役立っていると聞く。そして何より、日本的な茶道が日本的な野球に通じている側面を映し出している。=敬称略=
(編集委員)

 ◆内田 雅也(うちた・まさや) 1963(昭和38)年2月、和歌山市生まれ。桐蔭高―慶大卒。85年4月入社から野球記者ひと筋。大阪本社発行紙面(時に東京本社発行紙面でも掲載)のコラム『内田雅也の追球』は2007年4月スタートで、今月末に丸20年となる。

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