【内田雅也の追球】「草」から「土」への挑戦

[ 2026年2月3日 08:00 ]

右ひざをつきながら三塁へ送球するディベイニー(撮影・椎名 航)
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 「草野球」と言えば、子どもや素人、誰でも気軽にやれる野球のことだ。辞書には「草」は本格に準ずる、不十分なものといった意味で、草競馬、草相撲……といった言葉もある。野球なら雑草が生えた空き地でやるという印象がある。

 アメリカで草野球を指す言葉は「サンドロット」だ。空き地、草の生えていないサンド(砂)のロット(場所)という意味だ。大リーグ本拠地球場は内野にも草(芝生)がある。日本では古くから聖地の甲子園球場のように、内野は土(黒土)こそ本格的だった。

 プロ野球草創期からのファンで医師の竹中半平は月刊『ベースボールマガジン』1962年2月号の連載『筆の向くままに 気の向くままに』で草と土の日米の違いを指摘している。そのうえで<アメリカの野球を見ると内野の芝生が美しい。芝生なら打球がはやく走るから、守備もよほどしっかりしないと持ちこたえられない>とある。

 64年も前の論説だが、今にも通じる。逆に芝に慣れたアメリカの内野手は土の日本への対応が課題となる。

 阪神の新外国人キャム・ディベイニーである。シートノックで遊撃に入っている。たとえば6―4―3併殺で、正面のゴロに対し、右ひざを地面に着けるように折り、横手から二塁送球する。その分、わずかだが打球を“待つ”格好になる。

 「アメリカでゴロを処理する場所は天然芝を経て硬い赤土部分で、早く手もとに来ていた。甲子園など軟らかい黒土ではひと呼吸遅くなる。今後、どう順応していくか」。他球団スコアラーや本紙評論家の話である。

 直前で跳ねるイレギュラーバウンドにも見舞われた。後に自身の処理でできた穴をスパイクでならす光景も見られた。小幡竜平の見よう見まねかもしれない。真摯(しんし)さが垣間見えた。

 名遊撃手だった吉田義男は凹凸のトタン板を地面に敷き、壁当てでイレギュラーを捕る個人練習をしていた。阪神園芸グラウンドキーパーが感心して見ていたと聞いた。きょう3日、その吉田逝去から1年を迎える。

 阪神歴代外国人で遊撃を守ったのは63年ヤシック(6試合)、65年フェルナンデス(9試合)、07年シーツ(1試合)、19年ソラーテ(3試合)と過去4人。誰もレギュラーにはなれなかった。「草」から「土」への挑戦である。 =敬称略= (編集委員)

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