【日本シリーズ戦記 2000年「巨人―福岡ダイエー」】20世紀最後の奇跡「運命」のONシリーズ
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昭和から平成へ、時代を超えたプロ野球ファンの夢が実現した日本シリーズがある。20世紀最後の年。西暦2000年の「ONシリーズ」決戦だ。巨人V9の傑出したプレーヤーであり、日本プロ野球の2つの巨星。長嶋茂雄と王貞治が、覇権を懸けて激突するミレニアム対決は視聴率30%超、ファンの注目を集めた。2000年10月21日開幕。奇しくも「10・21」は20年前、巨人・長嶋監督が「男のケジメ」として退団。失意の中で王貞治と図らずも袂を分かつことになった運命の日でもあった。20年の時を超えて世紀のスーパースターが敵として相まみえた「生涯一度」のシリーズだった。(役職は当時、敬称略)
~長嶋が一塁側 王が三塁側 松井も清原も秋山も小久保も~
2000年10月21日18時04分。その時がきた。一塁側ベンチに長嶋茂雄がいる。三塁側ベンチには王貞治がいる。舞台は巨星2人がV9の栄光を刻んできた聖地・後楽園=東京ドームである。
ONシリーズの役者たちもスター揃いだった。巨人の先発は前年王の下で日本一となった工藤公康。4番は王のシーズン55本塁打のプロ野球記録にちなんだ背番号「55」を背負った長嶋の愛弟子・松井秀喜。5番には清原和博もいた。ダイエーの4番は小久保裕紀、8番には井口忠仁(現資仁)もいる。2人とも巨人が逆指名での獲得を目指したがダイエーを選択したスラッガーだ。7番には前年シリーズのMVP秋山幸二もいた。世紀の対決にふさわしい豪華絢爛、6人の名球会プレーヤーが名を連ねたミレニアムシリーズの幕が開いた。
長嶋が1958年。王が59年に読売巨人軍入団。プレーヤーとして16年間。V9を含む12度のリーグ優勝、11度の日本一。王は2度の三冠王、15度の本塁打王、13度の打点王、5度の首位打者…。長嶋は6度の首位打者、5度の打点王、2度の本塁打王…。両雄はプロ野球の象徴であり続けた。74年を最後に長嶋が現役引退、監督就任。立場は変われど2人が巨人軍のユニホームを着ていることに変わりがなかった。だがあの日、ONは図らずも違う道を歩き始めることになった。
~「男のケジメ」長嶋巨人退団会見から20年目の「10・21」~
1980年10月21日、長嶋は東京・大手町の読売新聞本社7階会議室にいた。17時10分、真っ赤に充血した目で記者会見を行った。3年連続のV逸。球団は球団常務でのフロント入りの「配置転換」の体裁を繕っていたが事実上の「解任」といわれた。長嶋はフロント入りを固辞したうえで「成績が不本意であったことで、男としてケジメをつけ、責任を取りたいということです」と退団の決意を述べた。長嶋は巨人のユニホームと決別し、王は現役を退き助監督に就任した。
~長嶋退団、王引退劇の舞台裏 柴田勲氏回想~
この時の舞台裏をV9巨人のチームメート、柴田勲氏が2000年10月15日スポニチ紙面連載「証言!世紀末夢決戦 王と長嶋」で明かしている。「80年シーズン終盤、僕は引退するつもりで当時まだ現役だった王さんに『辞めようと思うんです』と相談した。すると王さんも『オレも引退しようと思っている』という。最終戦の広島遠征、王さんが長嶋監督に『今年限りで辞めたいんですが…』と申し出たら『実はオレにもそういう話があるんだ』と告白され、さらに『2人とも辞めたのではまずいだろう。もしオレが辞めることになったら、王ちゃんは残ってくれないか』と言われたという。結局、長嶋さんは退任。王さんも引退したけど藤田新監督の下で助監督という形で残った。長嶋さんがいったようにONが同時にいなくなるのはまずいと思ったんだ」
長嶋は他球団からのラブコールを固辞し続け「文化人」として五輪報道などに関わりながら“浪人”生活を続けた。一方の王は84年に監督就任。87年リーグ優勝も日本シリーズで西武に完敗。翌88年V逸で退団した。昭和の終焉に合わせるように巨人からONが消えた。
~苦難の道のり 王屈辱の生卵事件 長嶋は98年退団危機~
ON不在の約4年間を経て92年10月、長嶋茂雄が巨人軍監督に復帰する。王貞治も、ダイエー監督・根本陸夫に「ONシリーズをやろう」と口説かれ94年10月、ダイエーの監督に就任する。ONシリーズの期待は一気に高まったが「夢」への道のりは険しかった。監督就任2季目の王は屈辱的な経験をする。4連敗を喫し9勝22敗の最下位に低迷した1996年5月9日、日生球場での近鉄戦後、王が乗ったダイエーの移動バスが約300人のファンに取り囲まれた。「サダハル辞めろ!」のシュプレヒコール。50個の生卵がバスのフロントガラスに投げつけられた。就任5季目の99年初Vを果たすまで解任危機に立たされ続けた。
一方の長嶋は復帰2季目の94年日本一。96年もリーグVを果たしたが、97年にV逸。優勝が絶望的な状況となった98年8月には進退問題が取りざたされた。6年契約の最終年。読売本社サイドでは「勇退」に備え、後任を森祇晶氏に一本化。水面下で監督就任を打診したとも伝えられた。結局、9月11日に森氏が「要請があっても受ける立場にない」と表明。長嶋続投となったが、第2次長嶋政権崩壊、ONシリーズ実現へ最大の危機だった。
~前年タカの開幕投手工藤が巨人先発 第1戦は王が笑った~
長嶋の「男のケジメ」から20年後、真剣勝負の場でONが同じ舞台に立った。20世紀最後のシリーズは第1戦からホームランの応酬となった。先手を取ったのは巨人。長嶋が手塩にかけて育てた松井が初回2死二塁。若田部健一のフォークを右中間スタンド最上段へたたき込んだ。だが先発の工藤がピリっとしない。2回、ダイエー入団時から捕手としての成長を見守ってきた城島健司に内角低めのボール球をすくい上げられスタンドに運ばれた。再び2点差で迎えた7回には1死一塁で松中信彦に痛恨の同点2ランを浴びた。前年はダイエーで開幕投手。完封を演じたシリーズ男が元チームメートたちに古巣の強さを思い知らされた。試合は9回3番手の槙原寛己が鳥越裕介の代打、メルビン・ニエベスに右翼スタンド上部の看板を直撃する特大2ランを浴びて王が笑った。
第2戦も巨人が先手を取った。2回村田真一の中前適時打などで2点。3回には松井、清原の連続二塁打で1点を加えた。だが、先発、ダリル・メイが踏ん張れない。5回1死二、三塁から柴原洋、鳥越の連打で1点差とされ降板。2番手、木村龍治が大道典良に左前打を浴び同点。小久保の左翼線二塁打などでこの回一挙6点を失った。7回城島の2号2ランでダメ押し。王は「いい流れで福岡に帰れるよ」。本拠地2連敗の長嶋は「ダメだな。打てない。短期決戦だもの。明日やりますよ」と打順の組み替えを明言した。
~ダイエーの失態で変則日程 長嶋移動第3戦で打線シャッフル~
本来ならば翌23日が福岡への移動休養日となるが、この年に限り第3戦は息つく間もない空路移動ナイター。まだ両リーグの優勝チームが決まっていない真夏に発覚したダイエーの大失態がシリーズ日程を変則的なものにしていた。8月21日、川島広守コミッショナーはパ・リーグでダイエーが優勝した場合、10月21日から行われる日本シリーズを3連戦、4連戦の変則日程で行うとの異例の発表をした。パ・リーグ球場で第3戦~第5戦が開催されるはずの10月24日から26日の3日間、福岡ドームで日本脳神経外科学会総会が開催されるためで、ダイエー球団が球場確保の義務を怠る前代未聞の大失態。日程は第3戦が福岡ドームで移動ナイター。2日間試合がなく第4、5戦は福岡ドーム。第6戦は移動日無しで東京ドーム開催の日程となった。変則日程が両チームにどう影響を及ぼすか誰にも分からない。ただ長嶋は日程などお構いなし。第2戦敗戦から20数時間後「シャッフルした」という大がかりな打線変更を断行した。試合前のミーティングでは「いいか、ダイエーよりお前たちの方が絶対に強いんだ。自信を持っていこうじゃないか」と暗示をかけた。敵地での第3ラウンド、巨人が蘇った。
2試合9打数ノーヒットの高橋由伸を3番から6番に下げ、清原を3番へ。5番にはDHのドミンゴ・マルティネスを入れる新打線。2回1死一塁。高橋がダイエー先発、プレイディー・ラジオから右翼へ先制2ラン。さらに仁志の適時内野安打で3点を先行した。その裏、先発・上原浩治が城島の3号ソロなどで同点とされるが、守備でビッグプレーが生まれる。同点とされなお2死二塁。村松有人の一、二塁間のゴロを仁志がダイビングキャッチ。二塁走者・柴原の本塁突入を見逃さず好返球で勝ち越しを許さなかった。助けられた上原はリズムを取り戻し、シリーズ初登板を8回3失点。新3番・清原は2安打。松井にも2号2ランが出た。長嶋はONシリーズ初めてのお立ち台で左翼スタンド巨党の大声援を受けた。
「福岡では伸び伸びと肩の力が取れた。これからが本当の戦いです」
~高橋尚成が史上初の新人初登板初完封 長嶋が王手~
雨のない福岡ドームで異例の2日間の空白。巨人は第3戦の流れを離さなかった。第4戦の先発は斎藤雅樹。誰もが認める平成の大エースだが、日本シリーズの勝利は89年対近鉄第5戦の1つだけだった。絶妙なピッチングで7回途中まで2安打1失点。現役最後となる11年ぶりのシリーズ白星をつかんだ。第5戦はルーキーの高橋尚成。タカ打線をわずか2安打12奪三振。史上初となる新人のシリーズ初登板完封をやってのけた。シリーズ5試合を終わって巨人の先発投手の投球イニング35回に対しダイエーのそれは21回1/3。3戦以降、守護神ロドニー・ペドラザは登板機会すらなかった。「短期決戦。ピッチャーがすべてです」圧倒的な投手力の差で長嶋巨人が王手をかけた。
~ONのDNAを受け継ぐ男 松井MVP 長嶋が舞った~
世紀のシリーズの決着をつけたのはONのDNAを受け継ぐ男だった。3回2死一塁で松井が左中間へ特大のシリーズ3号。5回1死一、二塁では試合を決める左中間二塁打を放ち、初のシリーズMVPを獲得した。92年、ドラフトで長嶋にクジを引かれ、巨人入団。背番号は王が記録したシーズン55本塁打を破るようにと「55」に決まった。長嶋に育てられ、この年開幕から不動の四番。2冠を獲得して王の前に立った。シリーズ練習で王は松井の打撃練習を見つめながら「おれの記録を抜くのは松井だ。ミスターの下でよく育てられた」と成長を認めていた。愛弟子の打棒爆発で日本一。長嶋は王の前で宙に舞った。
「世紀末、この選手権を制したことは巨人にとってもプロ野球にとっても良い意味でつなげていけると感じています」
~悔しい王「来年会おう」の願いかなわず最後の「ON」に~
王は敗戦が決まるとベンチ裏に消えた。「長嶋監督の胴上げ?ああ、裏のテレビで見ていたよ」と悔しさを隠さなかった。「何合目だか分からないが、自分たちがまだ低いところにいるのが分かっただけでもよかった」表彰式では長嶋監督に拍手を送り、その直後、巨人関係者に伝えた。「また来年会おう。ミスターによろしく」新世紀に向けての挑戦状だった。20世紀のプロ野球を象徴する日本シリーズは終わった。
松井が言った。
「運命的なものは感じる。神様がこういう大舞台を与えてくれたのでしょう。この時点から21世紀のスタートが始まると思う」
長嶋は翌2001年に勇退。王との再戦は実現しなかった。2004年、ダイエーホークスはソフトバンクホークスとなり王は2008年にユニホームを脱いだ。2018年、読売巨人軍専務取締役終身名誉監督・長嶋茂雄と福岡ソフトバンクホークス取締役会長・王貞治が18年ぶりに日本シリーズの舞台で顔を合わせた。ホークスが会心の4連勝。翌19年も4連勝で2年連続の日本一に輝いた。魂を受け継ぐ愛弟子たちの盟主対決は続いていく。(構成・浅古正則)
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