【内田雅也の追球】「捕手は補手」 時代が経っても変わらぬ裏方としての喜び

[ 2022年4月30日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神3-2巨人 ( 2022年4月29日    東京D )

<巨・神> 9回2死、坂本を見逃し三振に仕留め喜ぶ梅野(撮影・大森 寛明) 
Photo By スポニチ

 東京ドーム関係者出入り口の回転扉を抜け、外に出た阪神スコアラー・嶋田宗彦はフーッと息を吐き「冷や冷ややなあ」と笑った。巨人担当の先乗りである。1点差勝利は薄氷を踏むようだが、その分うれしい。裏方としての喜びがあった。

 嶋田らが集めた情報を生かしたのは捕手・梅野隆太郎である。最後の打者、代打の坂本勇人を見逃し三振に切った時、その場で跳び上がり、急ぎ足で完投勝利の青柳晃洋に駆け寄った。捕手もまた陰の存在であり、その喜びは裏方に似ている。

 攻守を交代しながら試合を進める野球では攻撃が守備に影響を与える。打撃好調ならば守備面で好守が出たりする。精神面が大きいのだろう。

 ところが、この夜の梅野は打撃面でブレーキとなった。2回表1死満塁で菅野智之のカッターを引っかけて遊ゴロ併殺打に倒れた。リーグ最多だった併殺打は今季7本目。昨季、あれほど好機に強かった梅野だが、得意の反対方向への打撃が影を潜め、引っかけた打球が多い。6回表2死満塁でもカッターに体勢を崩し、投ゴロに終わった。2度の満塁機で6人の走者を立ち往生させた。

 それでもリード面では青柳の特徴を生かした。たとえば、4打数無安打に封じた3番・丸佳浩にはカッター、シンカー、スライダー、ツーシームと4打席とも異なる決め球で打ち取った。

 4回裏無死一、二塁は3~5番を切り無失点。5回裏は味方失策から無死一、三塁を背負ったが最少失点でしのいだ。

 2リーグ分立の1950(昭和25)年から阪神正捕手を務めた徳網茂が<捕手は補い手>と著書『捕手への誘い』(71年発行・フォトにっぽん社)に記している。野村克也がよく書いていた「捕手は補手」の元祖だ。

 徳網は<細大もらさず、投手の性癖を調査すべき>と助言している。その点で投手陣とよくコミュニケーションをとる梅野は十分合格だろう。

 「昭和の日」だった。平成から令和となり、昭和は遠くなりにけりだが、捕手のあり方は時代を問わない。徳網は<捕手は飽迄(あくまで)投手の脇役である>と大正時代の三宅大輔『野球』を引用している。

 自分が打てず目立たずとも、梅野には静かにそして大いに喜べる勝利だったろう。 =敬称略=
 (編集委員)

続きを表示

2022年4月30日のニュース