亀山つとむ氏が提言 盗塁数トップでも点が取れない 作戦&意識改革が必要

[ 2021年11月13日 05:30 ]

阪神の盗塁ペース比較                                
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 【本紙評論家が振り返る矢野阪神3年目の「光と影(5)」】最終回のテーマは機動力。ルーキー中野が盗塁王に輝き、3年連続リーグトップのチーム114盗塁を記録しながら、チーム得点はリーグ5位の541点にとどまった。亀山つとむ氏は巨人とのCSでも機動力が発揮できなかったと指摘。走力を得点につなげるための作戦のバリエーション、選手の意識向上が不可欠だと強調した。

 記憶に新しい巨人とのCSから振り返ってみたい。ポイントになったのは初戦、1点を追う5回無死一塁での作戦だった。糸原への2球目に巨人バッテリーは大きくピッチドアウト。スタートを切ったマルテは二塁で憤死した。

 矢野監督も「あれを外すっていうのは何か根拠が…。かなり高い確率でないと外せないと思う」とこのプレーについて語った。サインが解読されていたのか、走者マルテの動きに何かが表れていたのかもしれない。この攻防で阪神は動けなくなった。

 第2戦は、巨人を上回る走者を出しながら、得点につなげるための作戦や工夫を展開することができずに、13残塁で敗退。初回1死一、二塁での暴投で近本が三進したのに、糸原がスタートを切れなかったり、1点を先制した2回2死二塁での近本の右前打で佐藤輝が三塁にストップと、機動力を生かせないまま、試合が終わった。

 後半戦を前に、矢野監督とテレビ用にインタビューをした。「後半戦は1点を取るスモールベースボールが大事になりますね」と質問したが、「その点は走れているからね」と不安は抱いていないようだった。だが、結果的にはあと1本、あと1点の重みを、公式戦でもCSでも味わわされた形になってしまった。

 盗塁ではチームで114盗塁と3年連続リーグトップの数字を残した。新人の中野が30盗塁で盗塁王に輝き、近本も24盗塁。植田(10盗塁)、島田(8盗塁)、熊谷(7盗塁)と一発で決める力を持った代走陣も前半では相手を揺さぶった。積極的に行くなら失敗も構わないベンチの姿勢も走る原動力になっていた。個々の走力は着実に上がっていると言っていいだろう。

 だが、残念ながら盗塁数と得点は比例しなかった。ヤクルトが625点を挙げたのに対し、阪神はリーグ5位の541点。先発、リリーフと駒をそろえた投手陣の踏ん張りに、援護ができなかったことを示している。

 野球はホームベースというゴールに近づくことで得点の可能性が膨らむ。その方法は盗塁だけではない。ヒットエンドラン、送りバント、進塁打、走塁の状況判断。ヒットが出なくても、あらゆる手を尽くして得点を狙う。いろんな作戦と連動してこそ盗塁も生きる。そのための機動力だ。

 盗塁も6月までの65盗塁から後半はペースダウンしていた。ヤクルトとの首位攻防戦(10月20日)では小野寺のバスター失敗という場面もあった。その点も含めて、武器の足をいかに得点に結びつけるか。負けただけに、もっと意識を高める必要がある。=終わり=

 《機動力野球が浸透》今季のチーム114盗塁は、00年以降で最多の03年115に次ぐもの。30度の盗塁失敗を合わせた企図数は144で、シーズン試合数(今季143)を上回ったのも03年の146(失敗31度、シーズン140試合)以来18年ぶりとなった。10試合ごとの数字(別表)ではともに後半戦のペース低下が見て取れ、似ている2つのシーズンだが、選手別の5盗塁以上は03年の赤星61、金本18、藤本9、秀太8の4人に対して、今季は中野30、近本24、植田10はじめ9人。赤星偏重だった03年と違い、チーム全体に矢野監督の標ぼうする機動力野球が浸透している。

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