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【内田雅也の追球】9回裏、阪神“6人交代”の意味 シーズン終盤に物言う、層の厚さと全員野球

[ 2021年8月23日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神2ー0中日 ( 2021年8月22日    バンテリンD )

<中・神>ホワイトボードを手に交代を告げる矢野監督(撮影・椎名 航)
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 9回裏の守りに入る際、球審に選手交代を告げる阪神監督・矢野燿大は携帯用のホワイトボードを手にしていた。

 ▽投手 岩崎→スアレス
 ▽一塁 サンズ→山本
 ▽二塁 木浪→植田
 ▽三塁 大山→木浪
 ▽左翼 ロハス→島田
 ▽右翼 佐藤輝→熊谷

 実に6つのポジションで守備を入れ替えた。木浪は二塁から三塁に移すなど、やや複雑で、確認用にボードを持参したのだろう。

 あのボードはベンチ内でコーチ陣と守備・打順の入れ替えを考える際に使われている。文字通り駒を動かすように、選手名の書いたマグネット付きの札を動かすわけだ。

 一挙6人は珍しいが、4、5人の守備固めは阪神ではよく見られた。新型コロナウイルスの影響で試合時間短縮のため、延長戦なしの9回打ち切り。リードしている展開で終盤に代走や守備固めが行われる。ビハインドの展開でも終盤に代打、代走から勝機を見いだす起用が見られる。

 今季は先発メンバーのレギュラー陣はほぼ固まって戦ってきた。控え選手の層も厚い。この日、糸原を下げ、木浪先発は6月1日以来だった。

 ただ、ベンチには俊足や好守の選手が多く控えているわけだ。2軍にも多くの出番を待つ選手がいる。何も矢野に聞いたわけではないが、この日見せたような、終盤の選手起用も全員で戦う一丸姿勢の醸成に効果があるのではないだろうか。

 この日、先発から最後まで出続けたのは捕手・梅野―遊撃・中野―中堅・近本のセンターライン3人だけだった。若き日の掛布雅之は監督・安藤統男から「最後まで試合に出てこそ本物」と守備力の重要性を指摘された。いまの大山や佐藤輝も守備力は一定の水準にあるとみるが、控え陣の守備力にはかなわない。

 以前にも書いたことだが、1990年代の暗黒時代――この言葉には抵抗感があるが――、阪神フロントは開幕前の戦力分析で毎年、自軍戦力を「Aクラス」「優勝争い」と位置付けていた。電鉄本社へのリポートにそう書いた。上層部から「優勝争いができる戦力を整えろ」と命じられていたからだ。

 リポートは取り繕った内容だった。実際はそこまでの戦力はなかった。当時の球団幹部から「先発メンバー9人だけの戦力を比較して、報告していた」と聞いた。実際、長いシーズンを戦うためには20数人の1軍だけでなく、2軍も含めた重厚な戦力が必要となるのは当然の話である。

 今季はこれで93試合を消化し、残りはちょうど50試合。ここからが胸突き八丁の正念場だ。戦力の厚さが問われる。ボードを使わねばならぬほど、臨機応変な選手起用ができる陣容は強みと言えるだろう。

 そして、野球では昔から「代わったところに打球は飛ぶ」と言われる。「勝負の鬼」川上哲治がテレビ解説で「だから代えるんじゃないか」と言ったのを覚えている。

 9回裏、代わった二塁手・植田の前にゴロが2本転がり、無難に処理した。ウイニングボールは代わった一塁手・山本がつかんだ。多くの選手が出場しての連敗脱出だった。 =敬称略= (編集委員)

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