「イチを大切に」「以心伝心」…侍・稲葉監督が作り上げた“選手が全力で躍動できる”環境

[ 2021年8月8日 07:45 ]

東京五輪第16日 野球決勝   日本2―0米国 ( 2021年8月7日    横浜 )

<日本・米国>胴上げされる稲葉監督(撮影・会津 智海)
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 優れた監督って何だろう。答えは一つしかない。「勝った監督」である。公開競技だった84年ロサンゼルス以来37年ぶり。正式種目としては初の金メダルに稲葉監督が導いた。

 大会前から決めていたのが「全勝宣言封印」。08年北京五輪では星野監督の全勝優勝宣言の下、強い重圧にチームはつぶれた。メダルを逃す4位という屈辱。「3敗しても優勝できる。ならば最後に勝てばいい。全部勝つ必要はない」。重圧という鎖を解き放たれた選手たちは、結果的に全勝優勝で応えた。

 「イチを大切にしよう」。就任来、そう繰り返してきた。初回、初球、1打席目、1歩目。最初に完璧な動きをするには、何よりも準備が大切である、とつながる。完璧な準備をもたらすのが心構え。「そのためには私たち首脳陣と、選手一人一人の考えが一緒にならないとできない」。1球ごとに戦況が一変する野球において、選手が試合を動かすことを望んだ。2日米国戦、スクイズや内野ゴロを警戒した内野5人の前進シフトを見て、打席に向かう甲斐は自ら「打っていいですか?」と進言してきた。4日韓国戦では坂本に犠打を命じる前に「バントしていいですか?」と問われた。18年日米野球での菊池の同点セーフティースクイズ、19年プレミア12での源田の同点セーフティーバント。土壇場での神がかったプレーは、選手が自主性を発揮し、1点を取るために動いてくれた。「そのシチュエーションで、何が最善策かと選手が凄く理解してくれた。こっちは凄くやりやすかった」。言う前に思いが伝わる「以心伝心」がそこにあった。

 現役時代、忘れられないプレーの一つが09年WBC決勝・韓国戦。大会中4番を打つこともあったが、延長10回無死一塁では犠打を決め、イチローの決勝中前打を呼んだ。「あの場面、前の内川選手が出塁したら“バントだ”とネクストバッターズサークルで迷わず思った。だから一球で決められた」。当時の原監督との意思疎通からの心構え、準備、初球から。世界一に立った場で至った境地が、今のチームに浸透し、今度は指揮官として世界一の座に立った。

 野手は13人中9人が優勝したプレミア12出場組。コロナ下のバブル方式で食事は黙食とコミュニケーションがはかりにくい中、結束への下地があった。力が必要な投手は山本に加え、森下、伊藤、栗林ら新人2人を加えた勢いのある若い力が支えた。「いい選手を選ぶのではなく、いいチームになるように選んだ」。新旧融合へ、何よりも風通しを良くしようと努力した。強化合宿中には自らフリー打撃で打席に入り、柵越えを放ち盛り上げた。3日の誕生日にはサプライズで全員に祝福を受け、赤いパンツを贈られると「決勝ではきます!」と宣言。臆さず神輿(みこし)にも乗った。そんな指揮官の下だから、世界有数のポテンシャルを持つ侍戦士たちは全力で躍動できた。(後藤 茂樹)

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