大谷を封じた「超変則投手」に直撃取材 その投球哲学とは

[ 2021年7月5日 08:30 ]

大谷を変則投法で封じたコルテス(撮影・杉浦 大介通信員)
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 エンゼルス・大谷翔平選手の歴史的な爆発が続き、対戦するチームの投手たちも、より綿密な対策を講じる必要が出てきているのだろう。6月29日、ヤンキースタジアムでの一戦。「大谷封じ」に一考を巡らせたのがヤンキースの左腕コルテスだった。

 前日にあいさつ代わりの一発を放ったのに続き、この日も第2、3打席に本塁打と大当たりだった大谷。3打席連発がかかった7回の第4打席でマウンドに立っていたのがコルテスだ。カウント1―2と追い込むと、タイミングを外そうと、軸足をバタバタとさせ、さらに超スローに足を上げる変則モーション。球審に止められると、今度はスーパークイックで投げ込んだ。最後は極端なサイドスローから117キロのスローカーブで大谷のタイミングを外し、何とか中飛に打ち取った。

 このユニークな勝負の翌日。球場のフィールドでコルテスに声をかけると、日本人記者の取材目的を察したキューバ出身の26歳は、ニヤリと笑った。あの変則投法は、大谷に対するリスペクトゆえだと説明してくれた。

 「大谷が球界最高級の打者なのは、みんなが分かっていること。前の日も対戦して、彼は僕の球を一度見ていたから、別の姿を見せなければいけないと考えた。何とかしてアウトに取らなければいけないから、ああやって投げた。特に2本の本塁打を打った後だから、自分の仕事を果たそうとしたんだ」

 今季まで3シーズン連続で所属チームが変わっていることが示す通り、コルテスの持ち球には特筆すべきものがあるわけではない。それでもメジャーで生き抜くために、これまでもさまざまな形でタイミングを外すすべを模索してきた。

 「(変則投法は)ずっとやってきたことだ。あの投げ方でブライス・ハーパー(フィリーズ)にも投げたことがある。19歳から続けてきたことだ。状況に応じていつ、どんな投げ方をするかを考えるんだ」

 実際にこれまでの登板機会で、他の打者にもモーションを途中で止める珍妙なフォームで投げたことがある。同じくキューバ出身で、変幻自在の投法で打者を煙に巻いた「エル・デュケ」ことオルランド・ヘルナンデス(元ヤンキース)に憧れていたというのも、うなずける。

 審判によってはボークを宣告されても不思議はない投球フォーム。時に「トリック・ピッチャー(小ずるい投手)」という批判を浴びることもあるはずだ。大谷との対戦後も、ソーシャルメディア上では一部から「馬鹿げている」といったコメントも飛び交っていた。そんな背景をおそらくは理解しているからこそ、大谷には笑顔を見せる度量があったことにコルテスは感謝しているのだという。

 「試合後、家に帰って試合の映像を見て、大谷が笑っていたのを知った。クールなことだよ。11―5と大差がついた場面での対戦だったけど、僕にも仕事がある。大谷にホームランを許して、自分の仕事を失いたくはない。彼が楽しんでくれていたのを知って嬉しかった。彼のそんな姿をリスペクトするよ。そうやってこのゲームを楽しめるからこそ、彼はMLBの顔の一人なのだろう。良い選手だというだけでなく、良いキャラクターも持った選手だ」

 フィールド上では常に楽しそうにプレーする大谷は、実際にこのユニークな左腕との対戦も新たな経験として楽しんだのかもしれない。最後に大谷との次の対決時にはどうやって攻めるかと聞くと、コルテスは意味ありげにまたニヤッと笑い、「その時に判断するよ」とうそぶいた。世界中の個性派が集まってくるメジャーリーグに、こんな投手がいてもいい。今後の大谷との対戦時、コルテスがどんな投球をするかが今から楽しみである。(記者コラム・杉浦 大介通信員)

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2021年7月5日のニュース