【新井さんが行く 特別なキャンプ編】好きな野球ができる喜びを胸に

[ 2021年2月2日 05:30 ]

新井貴浩氏
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 スポニチ本紙評論家の新井貴浩氏(44)はコロナ下を考慮し、現役引退後も続けていた2月1日のキャンプ地訪問を見送った。プロ入りした1999年以降では初めて自宅で迎えた「2・1」。無観客の球春、そして、3・26開幕への思いを、恒例コラム「新井さんが行く」で寄せた。

 2月1日にキャンプ地にいないのは、初めてのこと。少し不思議な感覚だ。

 “正月”に例える人もいるけど、現役の頃は、とてもそんな気分にはなれなかった。また苦しい日々が始まる。でも、やるしかないと奮い立たせた。自宅でテレビ画面を通して見た選手たちの表情からも、やる気が伝わってきた。同じ気持ちなんじゃないかな。

 今春は球場にファンの姿がない。ユニホームを着て、ファンの方に見てもらうと身が引き締まるし、特守などでは声援に元気をもらった。「キャンプを見にいくのが楽しみ」というファンの方もたくさんいると思う。選手との距離が近く、シーズン中にはない触れ合いもある。残念なことだ。

 選手たちも我慢の1カ月になる。息抜きの外出もできない。大変かもしれないけど、世の中にはもっと大変な人がいる。好きな野球ができるのだから…と捉えてほしい。

 うれしい出来事もあった。田中将大の楽天復帰だ。メジャーのローテーション投手が日本へ戻ってくるのは、黒田博樹さん以来。しかも、同じ名門ヤンキースから。故郷ではないけど、プロ入りから過ごした仙台を大切にし、マウンドでも闘志を前面に押し出して投げる。いろんな面で黒田さんと重なって見える。

 08年の北京五輪ではチームメートだった。当時は高卒2年目で、代表では最年少。選手だけど、荷物運びや練習の手伝いの役目もこなし、先輩たちにもかわいがられた。愛される人柄は、いまも変わっていない。

 対戦する側は「何とか打ってやろう」と気持ちが高まる。周りからは抑えて当たり前と見られる重圧もある。そんな中でどんな投球を見せてくれるのか。今から楽しみでならない。

 復帰会見では東京五輪について「出たい」「金メダルを獲りたい」と言っていた。逆風が吹く五輪に前向きになれるメッセージだった。「予定通り」なら、起こり得なかったことだ。五輪の1年延期やメジャーのコロナ禍などマイナスとマイナスがかけ合わさって、可能性が生まれた。つらいこと、嫌なことばかりではないことを改めて教えてくれた。誰もが予測できなかった巡り合わせに応えようとする心意気が素晴らしい。

 いまはコロナ下でネガティブなことばかり。乗り越えた先に希望や楽しみがあると思えば、苦しい時間にも向き合える。ちょうど東日本大震災から10年になる。当時は選手会長。勇気づける…という上からの目線ではなく、一生懸命やる姿を見せるしかないと思ってやった。その姿を見て、何かを感じてくれたら…と。

 今度は感じる側、見せてもらう側になった。3月26日の開幕へ向けたスタート。プロ野球が社会に光を照らす一助になってほしい。
 

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2021年2月2日のニュース