気がつけば40年(25)長嶋解任から8年 巨人は王監督も切った 広岡氏固辞受け藤田監督再登板
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【永瀬郷太郎のGOOD LUCK!】記者生活40年を振り返るシリーズ。今回は1988年、全日程終了を待たずに断行された巨人の監督交代劇について苦い記憶をたどっていく。
ナイターの阪神戦(東京ドーム)を控えた9月29日、午後2時から東京・紀尾井町のホテルニューオータニで巨人の監督交代が発表された。5年契約を満了する王貞治監督がシーズン終了を持って辞任し、後任として前監督の藤田元司氏が復帰するという仰天人事である。
実は当日付のスポニチ東京版は「広岡氏固辞 王続投へ」と報じていた。最悪のパターン。発表当日に逆を打ったのだ。言い訳になるが、「続投へ」と踏み切るまでに次のような経緯があった。
この年の巨人は前半戦を首位で折り返しながら、ウォーレン・クロマティ、吉村禎章の故障離脱が響いてオールスター明けに首位陥落。監督問題が動き出したのは首位に立った中日との差が開き、優勝が絶望的になった8月下旬だった。
フロントは当初、続投を前提としてコーチングスタッフの大幅改造を提案したが、王監督に拒否され、長嶋茂雄監督、広岡達朗助監督という連立政権案の検討に入った。ところが、話が煮詰まらないうちに表面化し、強い反発にあって断念。次に浮上したのが広岡単独政権案だった。
広岡氏は不滅のV9時代を築いた川上哲治監督に反旗を翻して巨人を追われ、単身渡米するなど「巨人に勝つ野球」を追求。広島でのコーチ業を経て、監督としてヤクルト、西武を日本一に導いた。実績は申し分ない。早大の先輩に当たる岩本尭1軍担当が就任を要請したが、広岡氏は首を縦に振らなかった。
「できません。長嶋を(1980年に)ああいう形で解任し、王も同じような形で辞めさせるのは球界の損失です。こんなことを繰り返していたら人材はいなくなりますよ。来年も王にやらせるべきです」
さらに続けた。
「今年は大きなアクシデントが二つ(クロマティと吉村の離脱)ありました。チャンピオンになれないと言っても、どうしようもない成績じゃない。スタッフの味付けをしてやれば勝てますよ」
王監督続投を訴え、監督要請を固辞したのである。
フロントは今度は藤田前監督をヘッドコーチとして迎え、王監督を留任させる方向に舵を切った。スポニチの巨人取材班は、ここまでは把握していた。
そして9月28日、阪神戦を控えた東京ドームのOBルームで正力亨オーナーと王監督の会談が持たれた。午後3時52分に入室して約20分後、王監督が笑みを浮かべて出てきたのを目撃したのはスポニチの同僚記者だけだった。
それまでの取材でつかんだ事実関係には自信があった。そして会談後の王監督の表情。これが決め手となって「王続投へ」と踏み切ったのである。
しかし…。阪神に5―2で勝ったその夜、知人と食事に出かけた王監督が東京・中根の自宅に戻ったのは午前2時過ぎ。張り込んでいた同僚記者に王監督は「表情にだまされちゃいかんよ」と耳打ちした。時すでに遅し。輪転機はとっくに回っていた。
後で聞いた話だが、正力オーナーとの会談を終えて王監督が入った監督室から大きな物音がしたという。私たちは最後の最後で王監督の表情が何を意味していたかを見誤ったのである。
断を下したのは読売新聞社の務台光雄名誉会長だった。常々「巨人軍は日本シリーズに勝って初めて1勝」と口にしていた読売最高首脳。5年間“1勝”もできなかった王監督を切ったのだ。
事実上の解任。入団以来30年間にわたって着続けたユニホームを脱ぐことが決まっても、王監督は残り4試合、最後まで職務を全うした。
最終戦となった10月2日のヤクルト戦(東京ドーム)。1―5で敗れた試合後、背番号1は選手に胴上げで送られた。思わぬハプニングに目を潤ませ、マイクの前に立った。
「GIANTSの6文字のついたユニホームを着て皆さんの前に立つことは今日が最後です。巨人軍はまた来年も新しい姿で新しいスタートを切ります。今まで以上のご声援をお願い致しまして、お礼の言葉とさせていただきます」
無念の思いを押し殺した惜別の言葉を、左翼席の騒音がところどころかき消した。球界の大功労者が別れのあいさつをしているというのに、無粋なヤクルト応援団が「東京音頭」の演奏をやめなかったのだ。許せなかった。(特別編集委員)
◆永瀬 郷太郎(ながせ・ごうたろう)1955年9月生まれの65歳。岡山市出身。80年スポーツニッポン新聞東京本社入社。82年から野球担当記者を続けている。還暦イヤーから学生時代の仲間とバンドをやっているが、今年はコロナ禍でライブの予定が立っていない。
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