大谷と多くの共通点 MLBとNFL“二刀流”で活躍ボー・ジャクソンの番記者「悔いなき決断を」

[ 2020年8月28日 07:00 ]

今季の投手登板を断念したエンゼルスの大谷(AP)
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 エンゼルスの大谷翔平投手(26)は今月3日に「右肘付近の屈筋回内筋痛」の診断を受け、以降は打者に専念している。投手としては来季に復帰予定だが、米国内では二刀流継続を見直すべきとの声も上がる。形は違えど、大谷と多くの共通点があるのは、87~90年に大リーグとNFLの二刀流で活躍したボー・ジャクソン(57)。当時の番記者がジャクソンの競技人生を振り返り、大谷への思いも語った。(奥田秀樹通信員)

 2年ぶりの二刀流は、右肘付近の故障により、開幕2週間足らずで幕を閉じた。大谷の打者としての能力を考えると、米国内では投手復帰に懐疑的な声も上がる。今から約30年前、同じように二刀流継続の岐路に立たされた男がいた。MLBとNFLの異なるプロスポーツで伝説となったボー・ジャクソンだ。

 「私が50年の記者人生で見た最高のアスリートだった。投打の二刀流に挑戦している大谷も特別な才能を持っている。2人とも100万人に一人の逸材」と語るのは、「カンザスシティー・スター」紙の元記者、ディック・ケーゲル氏(80)。ジャクソンがロイヤルズでプレーした86~90年の5年間で、最も親交の深かった野球記者だ。「ボーは、デビュー戦で飛距離145メートルの特大アーチを打ったり、別の試合では左翼フェンス際から本塁に遠投して(87年盗塁王の)ハロルド・レイノルズを刺した。野球だけをやっていたら、ウィリー・メイズ(660本塁打338盗塁の殿堂入り外野手)のような最も偉大な選手の一人になれた」と断言する。

 しかし、ジャクソンは二刀流にこだわった。87~90年には、ロ軍とともにNFLのレイダーズに所属。両プロリーグでオールスターに選ばれた史上初、現在でも唯一のアスリートだ。89年にアナハイムで行われた球宴では、初回に先頭打者本塁打を放ち、MVPを獲得。球宴の同一試合で本塁打と盗塁をともに記録したのは、メイズ以来の快挙だった。

 ジャクソンは9月までは野球、10月以降はNFLと時期を分けてプレーした。悲劇が襲ったのはNFLの90~91年シーズン。タックルされた際に股関節を負傷し、後に人工関節を入れる手術が必要となった。91年のロ軍の春季キャンプには松葉づえ姿で登場。NFLの選手生活はこの年が最後となった。

 MLBでの選手生命も長くは続かなかった。エンゼルスに在籍した94年が最後。13本塁打を放ったが、かつてのスピードはなく、31歳の若さで引退した。その年の7月に大谷が生まれたのも、不思議な縁を感じる。

 大谷とジャクソンの共通点は3つ。(1)両方で超一流のポテンシャル、(2)両方の活躍で全米を熱狂させた、そして、(3)故障に悩まされたこと、である。ケーゲル氏はジャクソンの経験を踏まえ、最高峰のリーグで二刀流で成功する難しさを指摘する。「普通、投手は投げたあとは体力回復のために体を休めるが、大谷はその間、野手で試合に出る。ボーも野球シーズンが終わったら即、レイダーズに合流。フットボールが終わったら、ちょっと骨休めするだけで野球のキャンプに参加した。人間の体にはもっと休みが必要だったのかもしれない」。二刀流選手として伝説になった半面、故障のリスクを高め、短い選手生活という代償を払った。

 ジャクソンがNFLで負傷したのは28歳。選手のピークを迎える前だった。ケーゲル氏は、26~30歳を「野球人生にとって一番良い時期」と言い、「大谷は現在26歳であることを考えると、一つのエリアに集中した方がいいという思いもある。両方やるのは体の限界を超えているのかもしれない」と二刀流の今後を気遣う。

 ただ、ケーゲル氏は、太く短い選手生活を全力で駆け抜けたジャクソンについて「後悔はしていないと思う。なぜなら、ボーが二刀流を続けたのは両方をプレーするのが心から好きだったから」と話す。ほんの一握りの限られた才能だけが挑戦を許される二刀流。「あくまで、決めるのは大谷自身」。岐路に立つ大谷に、悔いのない決断を願っていた。

 ◆ボー・ジャクソン 1962年11月30日生まれ、米アラバマ州出身の57歳。オーバーン大を経て、86年のNFLドラフトでバッカニアーズからランニングバックとして全体1位指名されたが、同年に4巡目で指名されたロイヤルズに外野手で入団。87年にNFLレイダーズからドラフト7巡目指名されて以降、大リーグのオフシーズンにNFLでプレー。初めてMLB、NFLの両方で球宴に出場した選手となった。現役時代のサイズは1メートル85、102キロ。右投げ右打ち。

 ◆ディック・ケーゲル 1939年10月27日生まれの80歳。16歳、高校に通いながら新聞社の仕事を始め、64年から野球記者。「カンザスシティー・スター」や大リーグ公式サイトなどでロイヤルズを27年間担当。青木宣親(現ヤクルト)が出場した2014年のロ軍対ジャイアンツのワールドシリーズで引退。

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