【内田雅也の追球】拝所で聞いた「優勝」――「予祝」あふれる阪神キャンプ

[ 2020年2月2日 08:00 ]

キャンプ地・宜野座村の拝所で祈願する阪神・揚塩健治球団社長(右から3人目)、宜野座村・當眞淳村長(同4人目)ら
Photo By スポニチ

 春である。暦のうえでの立春は4日だが、キャンプインの1日は球春の到来を意味している。

 「春こそは――」と、ピュリツァー賞も受けた米国の野球記者、ジム・マレーがキャンプ中について書いている。「大地の氷が解け、木々が芽吹き、所得税を納め、そして、すべてのチームが優勝を夢想する季節」。

 夢見るばかりか、今の阪神には「優勝」という言葉が飛び交っている。

 キャンプ地の沖縄・宜野座村野球場(かりゆしホテルズボールパーク宜野座)で、選手たちがウオームアップしているころ、球団首脳陣は近くの拝所(ウガンジュ)を訪ねた。先祖神を祭り、神が降臨した聖地である。

 球団社長・揚塩健治、本部長・谷本修ら幹部、宜野座村長の當眞(とうま)淳らが線香をあげ、神酒をいただいた。

 村で最も古い家とされる根家(ニーヤ)の当主で先祖代々、同所を管理する大城清(63)が祈りをささげた。「本来、戦いや争いごとをお祈りするものではありません。阪神タイガースがこの地の水に合いますように、健康で衣食住が足りるように祈りました」

 そして、大城は実にあっさりと「今年は優勝しますよ」と言った。神のお告げといった種類のものではなく「そんな予感がする」らしい。

 キャンプイン当日の朝、毎年恒例の行事だが、いつも健康や安全について祈る大城の口から「優勝」が出るのは初めてである。

 監督・矢野燿大は「優勝」「日本一」と繰り返している。この日も練習前、「宜野座村の皆さまへの感謝として、日本一という形で恩返しします」と断言した。昨年から実践する「予祝」を今年はさらに強めている。

 <ポイントは「~なりたい」ではなく「~です」「~なりつつある」「~である!」と言い切ることです>と、ひすいこたろう・大嶋啓介『前祝いの法則 予祝のススメ』(フォレスト出版)にある。治療不可能と言われた患者が奇跡的に回復した話や、ネーティブ・アメリカン、ナバホ族の例を引いている。

 <「心」×「行動」=未来>という公式が示されている。この日開設された阪神球団のYouTube公式チャンネルには、前日1月31日、チーム宿舎での全体ミーティングの模様も部分公開されている。矢野はホワイトボードに<心+行動=結果>とほぼ同じ公式を書いて語っている。

 先の書にはこうある。<つまり、未来は選べるのです。行動は大事です。でも、その前に、どんな心の状態で行動するのかが、もっと大事だったんです>。

 冷静で決して浮かれたりしないはずの球団顧問・南信男でさえ「何度も聞いていると、そんな気がしてきた」そうだ。拝所で聞いた「優勝」も予祝効果がある。そんな気がしてきた。=敬称略=(編集委員)

続きを表示

2020年2月2日のニュース