五輪で勝つには、五輪に出るには…これが世界のやり方

[ 2016年8月5日 16:21 ]

 男子ハンドボールの五輪開催はリオデジャネイロ大会で13回目を迎える。しかし欧州勢以外が表彰台に立ったのは88年ソウル五輪で2位となった韓国だけ。それだけ欧州勢の強さが際立っていた。しかし昨年1月の世界選手権で2位となったのはカタール。同年11月のアジア予選をも勝ち抜いてリオデジャネイロ行きの切符を獲得した。

 と、いっても選手のほとんどは欧州出身。規定で3年間、国の代表選手になっていなければ国籍変更が認められるため、カタールは豊富なオイルマネーを使ってこの競技の強化を図った。すでに陸上中長距離では同じ方法を使ってアフリカの選手を“母国化”しており、それがチーム・スポーツにも広がりを見せている。欧州各国はこのカタール方式に不快感を示しているが、カタール側は「ルールに従ってやっている」と主張。とにかく今五輪の男子ハンドボールでは「準欧州オールスター選抜軍」とも言えるアジア代表がメダルを獲る可能性が出てきている。

 五輪のために競技を強化するやり方は他にもある。今回の開催国ブラジルの女子フェンシング代表にはナタリー・ムールハウゼン(30)という選手がいるが実はイタリアの出身。父はドイツ人で母はイタリア人なのだが、82歳になる祖母がブラジル出身ということもあってフェンシングの選手の層が薄いブラジル側から白羽の矢が立った。ロンドン五輪のあと彼女はいったんアート・ディレクターになるために競技から離れたが、祖母の母国から熱烈なラブコールを受けて現役を続行。07年欧州選手権と09年の世界選手権団体でイタリアの優勝に貢献した実力者は、これまでとは違う国の期待を背負って本番の舞台に登場する。

 さてカタールもブラジルも何年も前から競技の強化を開始している。その方法論については賛否両論があるが、どちらにせよスポーツを強くするには時間が必要なのだ。

 では4年後に夏季五輪を開催する日本はどうするのか?すでに動き出した競技団体もあるが、結果に直結する組織的なプランというものが見えてこないし、カタール方式やブラジル方式が日本人に受け入れてもらえるのかどうかという論議も公式の場では聞いたことがない。

 ただ五輪に出る、あるいは五輪で勝つには最終的には個々の熱意が必要だ。日本は世界的に見ればスポーツ環境は恵まれている。戦禍をくぐりぬける必要もないし、劣悪な施設で練習するというケースも少ない。それでも仕事をしながら競技を続けている選手も多いはずだ。「できれば練習に少しでも多くの時間を割きたい。でもそうすると収入がなくなる」。こんな思いを抱いているのは何も日本の選手だけではない。英国の重量挙げ男子でただ1人の代表となったソニー・ウェブスター(94キロ級)もそうだった。ただ日本選手とちょっと違ったのは彼は22歳という若さにもかかわらず、強くなりたい一心でこの問題を解決する方策を見つけたことだった。

 ロイター電によれば、ある日ジムの駐車場にポルシェが1台あることに気がついた彼は、係員からその持ち主の名前を聞き出したそうだ。そしてジムに入るなり「ジェフさんはいますか?」とその名を大声で叫んだのである。「はい、私ですが…」と名乗り出た男性に対し、ウェブスターは「500ポンド(約6万8000円)で私のスポンサーになってください」と懇願。一度だけの出資と考えていたウェブスターの意に反し、ポルシェのオーナーは「月500ポンドでいいんですね?」と涙が出るほどうれしい勘違いをしてくれたのだった。おかげでウェブスターは練習に専念。彼は自分で見つけた“ポルシェ資金”で競技力を向上させたのだった。

 組織の力を待ってそれに従うのも方法のひとつ。しかし何もない環境の中からでも五輪への道は開けている。だからあきらめてはいけない。脳に汗することも大事な強化策だと思う。(スポーツ部・高柳 昌弥)

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2016年8月5日のニュース