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【オシム観戦記2】大きな重圧、こんなブラジルなら優勝できない…

[ 2014年6月14日 10:32 ]

<ブラジル・クロアチア>前半11分、オウンゴールで先制点を献上したDFマルセロ(左)(AP)

 私が千葉の監督だった時代にも、審判のミスで試合結果を変えられたことが何度もある。ユーゴスラビア時代のシャバナジョビッチ(90年W杯アルゼンチン戦でマラドーナをマークしたDF)に対する退場処分にも、文句がないわけではない。しかし、判定は覆らないのだから、その結果を受け入れて生きていくしかない。西村主審ら日本の審判団は開幕戦を任され重圧を感じていたのかもしれないが、いい経験になったことだろう。

 ブラジルは開幕戦ならではの重圧にさらされていた。優勝候補の最有力と見ているが、ネイマールを含め、判定に助けられて辛勝したこの日のようなチームならば、残念ながら優勝することはできない。前回大会に出場した選手は半数以下で、若くてフレッシュな部分と、未熟で経験不足の両方の要素を持つ。若さは、いったん走りだせば爆発的なエネルギーが出る。半面、体験したことのない未知の要素と遭遇すると、冒険心と恐怖心が競争をする。重圧が負担となり、一度後ろ向きになると、急坂を転げるように隊列が崩れやすい。ブラジルを応援する満員の観客のほとんどは、思い通りに試合が運ばないと、ブーイングもする。期待の裏返しなのだが、それが若い選手にはどれほどの重圧になるか。「ブラジルの最大の敵はブラジル」というわけだ。

 過度の緊張や興奮は動きを鈍くする。立ち上がりはブラジルの動きが鈍かった。攻めている間は目立たないが、ボールを奪われ、クロアチアが縦への素早い攻撃を試みたとき、欠点が表れた。とくに右サイド(クロアチアから見て左サイド)の対応は遅かった。こぼれ球への反応も緩慢だった。「この試合のブラジルはおかしいぞ」と思ったところで、クロアチアのサイドからの攻撃がオウンゴールを誘い、先制を許した。仮にマルセロがミスしなくとも、後ろからクロアチアの選手(ペリシッチ)がゴール前に詰めていた。

 ただ、先制されてもすぐにチームが崩壊しないところは、さすがだった。1点リードされた後、動きが鈍くポジションも固定されがちだったネイマールに、フェリペ監督は「自由」を与えた。おそらく、ポジションにこだわらず、どんどん自由に動き回れと指示したのだろう。フッキとポジションを交換したり、中央に入るようになった。同点シュートは当たり損ねだっただろうが、転がったコースが良く、これでブラジルは息を吹き返した。

 クロアチアも良いチームであることを証明した。コバッチ監督は試合前に「ゴール前に大型バスを駐車するようなことはしない」という表現で、守備一辺倒の戦い方はせず、攻撃的に行く方針を明言していた。現実には、個々の力で上回るブラジルにボールを支配される展開になり主導権を握れなかった。そこで、初めから織り込み済みだったプランBに切り替えた。

 ブラジルに横パスを自由に回させるが、縦パスが入るところを狙って奪い、カウンターという作戦だ。これが見事にはまり、先制点を奪った。ひょっとしたら、この先制点が早すぎたのかもしれない。もっと長い時間、0―0のスコアが続いてブラジルが焦る展開になっていれば、違った結末だったかもしれない。

 コバッチ監督に対し「若すぎて、経験不足」と心配する意見が聞かれるが、この試合を見る限りは、大きな問題はない。しっかりした監督だという印象を受けた。ただ、これで残り2試合を連勝しなければならなくなった。この試合でエネルギーを使い果たしていなければいいが。06年のドイツ大会でも初戦でブラジルと対戦し、その後まったくふるわなかった苦い経験があるからだ。

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2014年6月14日のニュース