久保九段 藤井の開幕白星は「1勝以上に価値ある1勝」、受けにも目配ったトレンド指し手

[ 2021年6月7日 05:30 ]

第92期棋聖戦5番勝負第1局 ( 2021年6月6日    龍宮城スパホテル三日月 )

棋聖戦第1局・第1図
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 藤井の初防衛戦開幕局を、王将経験者の久保利明九段(45)が解説した。その66手目△3三桂を「人間には考えづらい手」として絶賛した。

 渡辺王将に▲4五桂と王頭へ迫られた局面、藤井棋聖が攻めるなら△6九との王手でしょうか。渡辺王を下段へ落としての斬り合いがまず目につきますが、違いました。自身の角の利きを閉ざし、王の逃げ道もふさぐ△3三桂(第1図)。4五桂との交換を迫る、守りの手でした。

 この指し手が示す意味はもう一つある。▲5三桂成から殺到されても有効な手順はない、と見切っている。実際、渡辺王将は▲5三桂成を選択し、藤井王を3段目へ引っ張り出すことに成功しましたが、寄せ切るまでには至りませんでした。

 1年前、初のタイトル獲得となった棋聖戦第2局で話題になった藤井棋聖の△3一銀。将棋ソフトが6億手を読んだ末に最善手とした異次元の手であり、将棋大賞では升田幸三賞(特別賞)にも輝いた。デビュー直後は攻めの手で話題を集めた藤井棋聖ですが、最近は受けの好手を連発しています。AI研究の普及で自王を顧みず、一手勝ちを目指すことの危うさが判明し、より実戦的に受けにも目を配るトレンドを象徴した指し手が注目対決第1局の命運を分けました。

 対局は2月、藤井棋聖が勝った朝日杯準決勝と36手目まで同一手順。前回対戦の指し手を踏襲したのですからお互い、自信ある進行だったはず。しかもタイトル戦での先手番を重視する渡辺王将。そこを確実に拾って後手番で1勝できれば番勝負を制することはできます。その意味で、藤井棋聖が手にしたのは1勝以上に価値ある1勝。名人戦を4勝1敗で防衛し、好調の疑えない渡辺王将に、ちょっと考えられない勝ち方でした。

 《攻め合い多い型》本局は互いに角道を開けず、初手から飛車先の歩を突き合っていく「相掛かり」が用いられた。攻撃力が高く、激しい攻め合いになることが多い型。アマチュアはもちろん、プロの対局でも採用率が非常に高い。他の戦法ほど手順が整備されているわけではないので、分岐の多さも特徴。研究の余地がある奥深い戦法のため、多くの将棋指しが日々研究を重ねている。

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