藤井2冠!“人間超えた”封じ手で無傷4連勝で王位に 最年少八段昇段も決める

[ 2020年8月21日 05:30 ]

<王位戦第4局>色紙に「二冠」と記し笑顔の藤井新王位(撮影・岡田 丈靖)
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 とどまることを知らない、またも偉業達成だ。木村一基王位(47)に藤井聡太棋聖(18)が挑んだ第61期王位戦7番勝負第4局2日目が20日、福岡市の大濠公園能楽堂で指し継がれ、藤井が80手で勝利。1日目の封じ手が飛車を切り捨てる妙手で、この一手をきっかけに守りに定評のある木村を攻略。無傷の4連勝で最年少で2冠を獲得するとともに、最年少八段昇段を決めた。 

 棋聖奪取からわずか35日。2冠ホルダーになっても、終局後はいつもと変わらぬ控えめな藤井がいた。「4連勝という結果は、望外というか実力以上の結果が出たのかなと思います」。2017年4月、デビュー11連勝の新記録達成時の会見で使った難解熟語で再び報道陣をざわつかせたが、さらに驚かせたのは過去にも数々の伝説を残してきた神の一手だ。今局でさく裂したのは、前日に36分長考の末にひねり出した封じ手だった。

 飛車切りを迫られた難しい局面。中継の解説を務める棋士らの間でも、飛車を取られることを嫌って横に逃げる見方が大半だったが、実際に決断したのは銀を取っての[後]8七同飛成。大方の予想を覆す一手で、結果として大駒を手放す勇気ある選択だった。

 「自信のない局面。強く踏み込んで勝負しようと思った。結果的によかった」。リスクが高く、プロなら指さない常識外れの一手だが、実はこれがAIの示す最適解だった。封じ手が明らかになった瞬間、五分五分だったAI診断の数字が藤井有利に傾いた。

 さらにこの飛車を金で取ったことで守りが手薄になった木村の王をロックオン。攻めをつないで着実にリードを広げ、そのまま押し切った。棋聖戦と並行で進んだ過密日程の中で、さらに磨きがかかった勝負勘が発揮された結果だった。

 今回の偉業は“無敗14連勝”で獲得したものでもあった。王位戦の予選2回戦から登場し挑戦者決定リーグまでまず9連勝、挑戦者決定戦では永瀬拓矢2冠を寄せ付けず、7番勝負でも木村に1勝も許さなかった。挑戦者として予選から王位戦無敗で冠奪取したのは史上初の快挙だった。

 新型コロナウイルス感染拡大の影響がある中、棋聖に続くタイトル奪取は信じられないほどの衝撃だ。4月から6月2日に公式戦が再開されるまで1カ月半以上も実戦経験を積めない状況で、パソコンなどを使って序盤の定跡などを整理して研究。「じっくりと自分の将棋と向き合えた」と前向きに捉え、さらなる棋力向上につなげた。この日「将棋界を代表する立場として自覚は必要だと思う」と話したように精神面の成長も見逃せない。

 羽生(21歳11カ月)を超える最年少2冠、加藤一二三・九段(18歳3カ月)を上回る最年少八段昇段、史上初の10代での番勝負無敗戴冠およびタイトル戦出場2期で2冠獲得…。新記録尽くしで福岡の地に歴史を刻んだ次の目標は、高校生で3冠獲得の可能性を唯一残す王将戦だ。

 冠を獲得すれば、その時は唯一の3冠ホルダー。そうなれば将棋界は一気に藤井時代到来を告げることになる。憧れる地元・愛知出身の戦国武将・織田信長が目指した天下統一の道を、没後約440年を経て将棋界の若武者が突き進んでいく。(窪田 信)

 八段昇段規定の一部改定 八段昇段条件に関して日本将棋連盟は(1)竜王位1期獲得(2)順位戦A級昇級(3)七段昇段後公式戦190勝だった条件を2018年6月1日に改定。(1)竜王位1期獲得(2)順位戦A級昇級(3)タイトル2期獲得(4)七段昇段後公式戦190勝とした。棋聖、王位の2タイトルを獲得した藤井は(3)に該当ととなり、八段昇段が決まった。新ルール適用での昇段は、同じ2冠の永瀬に次いで2例目。八段は最高位の九段に次ぐ段位。藤井の師匠の杉本ら、藤井を含めて現役プロ棋士169人中30人がいる(九段は31人)。

 ▽王位戦 1960年に創設された将棋8タイトルの一つ。シードと予選通過者計12人が6人ずつ紅・白組に分かれてリーグ戦を戦い、各組1位が挑戦者決定戦を戦う。勝者が7~9月に保持者と2日制、持ち時間各8時間の7番勝負に臨む。永世保持者は故大山康晴15世名人と中原誠16世名人、有資格者は18期の最多記録を持つ羽生善治九段。 

 ◆藤井 聡太(ふじい・そうた)2002年(平14)7月19日生まれ、愛知県瀬戸市出身の18歳。杉本昌隆八段門下。5歳で将棋を始め、小4で奨励会入会。16年10月に史上5人目の中学生、最年少14歳2カ月でプロ入り。先月16日、棋聖戦を制し初のタイトルを獲得。名古屋大付高3年。18年に瀬戸市民栄誉賞を第1号として受賞。

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