【内田雅也の追球】レイに沈黙「初物だから」は口実でしかない 「ハスラーのごとく」勝負の鬼に

[ 2022年6月10日 08:00 ]

交流戦   阪神0―4ソフトバンク ( 2022年6月9日    ペイペイD )

8回、高寺は二直に倒れる(投手・レイ)
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 映画『ハスラー』が日本で公開となったのは1962(昭和37)年6月13日だった。「何と申しましょうか」の名調子で知られた野球解説者、小西得郎は封切り日に見に行った。あまりに面白く翌日もまた見たそうだ。当時スポニチ本紙評論家で、翌月の連載コラムで書いていた。

 日本ではビリヤードをする人という意味のハスラーだが、本来はギャンブルで相手から金を巻き上げる勝負師を指す。小西が書きたかったのは主人公エディ(ポール・ニューマン)の勝負にかける姿勢である。<私たちプロ野球人も><勝負の鬼になれ、エディのごとく“ハスラー”それを言いたいのです>。

 映画では賭博師バートがエディに勝負の厳しさを教える。「世の中には負ける口実を探しているやつが多い。勝つことは大変な重荷だから。人は口実を作って重荷を下ろそうとする」

 阪神はこの夜、ソフトバンクの外国人右腕コリン・レイに完封を喫した。1メートル96の長身から投げ下ろす速球に、ナックルカーブ、カッターなど変化球が切れた。確かに初対戦で攻略するのは容易ではない。

 ただし「初物だから」は賭博師の指摘する「口実」だろう。不調だったとはいえ、阪神先発アーロン・ウィルカーソンの方は初対戦だった相手に攻略されているのだ。

 それに前日が1軍デビューだった19歳の高寺望夢が快打を飛ばしていたではないか。バットの芯でとらえたライナー2本と四球。事前の情報に加え、打席で感じた肌感覚を基にスイングを工夫しているように映る。勝負に挑む際の準備や工夫は「重荷」ではない。

 前日の零敗後、当欄で<切り替えて再出発を>と書いたが、またも零敗を喫した。もう幾度も書いてきたが、シーズンは一寸先が闇だ。今が底なのか、沼はまだ深いのか、トンネルの出口はどこにあるのか……誰にも分からない。落ち込みすぎず、もう一度再出発を期す敗戦としたい。

 先に書いた小西はこの日6月9日が命日だった。77年、心筋梗塞のため80歳で逝った。三度の飯より野球が好きで<老いらくの恋も忘れて球遊び>という句が残る。

 プロに徹した野球人の<ハスラーたれ>は今にも通じている、と覚えておきたい。 =敬称略=
 (編集委員)

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2022年6月10日のニュース