【内田雅也の追球】麦秋に心が揺れる 敗因はむろん打線だが、8回に失った2点目も痛かった

[ 2022年6月1日 08:00 ]

交流戦   阪神0-2西武 ( 2022年5月31日    甲子園 )

<神・西>8回、森の適時打で生還する若林(捕手・長坂)。この追加点が痛かった(撮影・北條 貴史)
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 今季13度目の零敗を喫した阪神の敗因は打線にある。ただし試合展開からすれば、8回表に失った2点目が痛い。

 この回1死一塁から救援の加治屋蓮が2死後、山川穂高に四球を与え、一、二塁。左打者の森友哉を迎えた。左キラーの左腕・渡辺雄大への継投策もあるなか、ベンチは続投を判断し、右前適時打を喫したのだ。

 鋭いカッターが武器の加治屋は右打者に被打率・083。左打者は同・200(成績はいずれも30日現在)だが、最近はフォークを交え、左打者も抑えていた。そんな続投判断だったろうか。

 森の打球は一、二塁間をゴロで破られた。前進守備の右翼手・島田海吏が打球を捕った時、二塁走者・若林楽人はまだ三塁ベースの2歩ほど手前だった。ストップかと思えたが、イチかバチかの本塁突入。島田は焦ったのではないか。やや処理にもたつき本塁送球は間に合わなかった。確かに若林は俊足だが、森のインパクトから生還まで、手もとの計測で6秒49。速いのは速いが猛烈に速いというわけではない。痛恨の失点となった。

 1点差ならば9回裏も違った攻撃ができていた。先頭の糸原健斗が中前打で出た。代走・植田海の手があった。送りバントもできた。1点差なら相手外野陣も前進守備を敷いたかもしれない。ならば、中堅左後方に舞った代打・北條史也の飛球は抜けていた。

 問題が打線なのは言うまでもない。防御率1点台で4敗目(3勝)をつけてしまった西勇輝に合わせる顔もない。
 試合前、にわか雨が降り、初夏の空気が漂っていた。七十二候は麦秋至(むぎのときいたる)。麦の収穫時期である。

 小津安二郎の映画『麦秋』を思う。主人公の紀子(原節子)は家族や親戚が勧める縁談を断り、戦死した兄の友人のもとに嫁いでいく。親友のアヤ(淡島千景)に「昔からよく知ってるし、この人なら信頼できると思ったの」と理由を話す。

 信頼である。これほど投打のバランスが悪いと、信頼関係が崩れてしまわないかと心配になる。

 映画のラスト。実りのときを迎えた麦の穂が風に揺れていた。敗戦に怒号も飛んだ甲子園では選手たちの、そしてファンの心がざわつき、揺れていた。 =敬称略= (編集委員)

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2022年6月1日のニュース