文田健一郎 金メダルのため“魅力封印”も「楽しくない」苦闘の末にたどり着いた勝利と投げの両立

[ 2024年8月7日 03:13 ]

パリ五輪12日目 レスリング ( 2024年8月6日    シャンドマルス・アリーナ )

<パリ五輪 レスリング男子グレコローマンスタイル60キロ級決勝>金メダルの文田(撮影・小海途 良幹)
Photo By スポニチ

 男子グレコローマンスタイル60キロ級は6日、東京五輪銀メダリストの文田健一郎(28=ミキハウス)が決勝で曹利国(中国)を4―1で下し、悲願の金メダルに輝いた。悔し涙を流した東京五輪から3年。スタンドで声援を送り続けてくれた愛する妻と娘の前で、東京五輪の“忘れ物”を取り返した。また、グレコローマンの五輪金メダル獲得は、1984年ロサンゼルス五輪52キロ級の宮原厚次以来。40年ぶりに歴史の扉をこじ開けた。

 忘れ物を取りに行く――。金メダル獲得だけを目指して降り立ったパリで、3年前の決勝と同じ赤のシングレット姿の文田が悲願を成し遂げた。気迫みなぎる表情でマットに上がり、序盤から優勢に進め開始2分で3―0とリード。そのまま第2ピリオドへ。後半50秒で相手に1ポイントも、それ以上の失点は許さず。相手の反撃を最後まで押し切り、ついに悲願の金メダルを決めた。

 周りの評価も、文田自身も、金メダルを確信して臨んだ東京大会では、決勝でキューバ選手に敗れて銀メダル止まり。試合後は周囲をはばからずに号泣した。豪快な反り投げを得意とし、ただ勝つだけではなく、魅せるレスリングを信条としてきたが、自信は打ち砕かれた。

 長期休養を挟み、再起を決めた後は、勝つためのレスリングに徹した。投げを封印し、ただただ相手のポイントを1点でも上回るスタイル。「自分のレスリングを変えて、投げをしないスタイルをやって、試合も練習も楽しくなかった」とまで語る。競技へのモチベーション自体を失い掛け、不退転の決意で臨んだ昨年の世界選手権で決勝進出を決め、2大会連続の五輪出場が決定。すると翌日の決勝では投げを解禁。敗れたものの勝利と投げを両立する、ハイブリッドなレスリングで3年前からの進化を示した。

 東京五輪前から交際していた9歳年上の有美さんと22年6月に結婚。根っからのポジティブ思考で、小さいことにくよくよせずに文田をもイジり倒すという愛妻には、厳しい減量を伴う食事面など様々なサポートを受ける。昨年1月には長女の遙月(はづき、1つ)が誕生。パリにも駆け付けた娘には「負けるところを一度も見せたくない」と自分自身に誓い、世界の猛者と対峙(たいじ)した。

 そしてたどり着いた五輪の「決勝」。愛する妻と娘の前で、3年間
追い求めてきた「金メダル」にたどり着いた。

 ◇文田 健一郎(ふみた・けんいちろう)1995年(平7)12月18日生まれ、山梨県出身の28歳。山梨・韮崎工高、日体大を経て、18年4月からミキハウス所属。中学で本格的に競技を始め、高校時代は父・敏郎さんが監督を務める韮崎工で史上初のグレコ高校8冠を達成。16年全日本選手権を初制覇し、17、19年世界選手権を制覇。21年東京五輪は銀メダル。日体大では男子フリースタイル57キロ級の樋口黎と同期。家族は妻・有美さん、長女・遙月ちゃん。

続きを表示

この記事のフォト

「羽生結弦」特集記事

「テニス」特集記事

スポーツの2024年8月7日のニュース