「パリ五輪を目指さない」という選択肢 サーフィン中塩佳那の場合

[ 2023年7月26日 08:00 ]

<サーフィンBonsoy千葉一宮オープン最終日>鳥居をかたどったトロフィーを手に笑顔の中塩佳那
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 きょう7月26日で、パリ五輪開幕までちょうど1年。その節目の日の前日、国内開催では最大級の大会に優勝した中塩佳那は、「パリは目指していません」と言い切った。

 東京五輪の会場となった千葉県一宮町の釣ケ崎海岸で25日まで行われたサーフィンの「Bonsoy一宮千葉オープン」。19歳の中塩は30分間の準決勝で残り4分を切ってから最初の試技を行い、4・75点。それでも実力者の脇田紗良の後塵(こうじん)を拝していたが、残り10秒で2本目の波に乗り、4・45点を出して際どく逆転。劇的な“サヨナラ勝ち”の勢いで、一気に頂点まで上り詰めた。

 準決勝の2本、そして決勝で最高得点となった6・00点を出した試技は、いずれもレギュラースタンス(左足前)の中塩が波を背にして進むバックサイド方向でのトップターンで叩き出したものだった。通常、波を正面にするフロントサイド方向への試技よりも難度が高いため、得点も出やすいと言えるのだが、このスタンスに、パリ五輪をあえて目指さない理由がある。

 パリ五輪のサーフィン会場となるのは、仏領ポリネシアのタヒチ島チョープー。高さ5メートルを優に超える筒状に巻くその波は、基本的にレフト(岸を正面に左方向)に滑らなければならない。つまり中塩にとっては身長の3倍に及び、さらに厚み=水量のある波を背にしなければならないわけだ。「自分はレギュラーだけど、チョープーはグーフィー(右足前)の波。難しいし、リスクがある」。冷静な判断だと思う。

 日本サーフィン連盟は、特殊なサーファーの聖地であるチョープーでのパリ五輪に向けて、「特定強化指定選手」なる制度を設けた。適性があることを示すために、チューブライディングの動画提出を選考条件としたもので、女子はA~Cの通常の強化指定選手24人のうち、現在8人しか特定強化指定を受けていない。無論、中塩も入っていない。一方で「(プロ最高峰の)CTや(パリ五輪の)次のロサンゼルス、ブリスベンを目指したい」と話す通り、決して五輪を諦めたわけではない。

 仙台出身ながら大会が行われた千葉県一宮町に移住し、地元の県立高校の全日制を卒業。昨年4月からは早大スポーツ科学部に進んだように、中塩の競技人生のテーマには「文武両道」がある。現在も週4日は片道3時間近くを掛けて所沢や東伏見のキャンパスに通うといい、「でも土日はしっかり練習できる」と言うものの、サーフィンに専念する選手に比べれば、競技に費やす時間は少ないはずだ。

 ただそれも、一つの道であろう。後期からはスキーのクロスカントリー指導者でもある藤田善也准教授のゼミに入り、自らが被験者となって、動作解析の研究を行うという。「技に入る時の膝の角度や、リップをするまでに秒数がどのくらい掛かり、その時の膝の角度がどうとか…」。スノーボード・ハーフパイプの北京冬季五輪代表で、22~23年のW杯種目別総合優勝を果たした小野光希と同じゼミでの研究テーマを口にした中塩は、競技の時とは違う、目の輝きを放って話してくれた。

 学年で1つ上に当たる松田詩野は、一度は条件付き内定を得ていた東京五輪代表からの落選という失意を乗り越え、パリ五輪代表をつかみ取った。一意専心の挑戦は尊い。同じように、文武両道から一つ先の五輪を目指すルートがあってもいい。(記者コラム・阿部 令)

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