記録で見る八村のNBA3シーズン目 大幅アップの3P成功率とその裏側にある特徴的データ

[ 2022年4月11日 10:11 ]

3点シュートの成績を大幅にアップさせたウィザーズの八村(AP)
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 【高柳昌弥のスポーツ・イン・USA】NBAウィザーズに所属する八村塁(24)の3シーズン目が終わった。昨季はプレーイン・トーナメントを勝ち抜いてプレーオフ1回戦まで駒を進めたが、故障者続出の今季は東地区全体の12位で終了。ポストシーズンには進出できなかった。

 「個人的事情」で出遅れた今季の初戦はチーム40戦目となった1月9日のマジック戦。オフにレイカーズから移籍していたカイル・クーズマ(26)の控えとしての出場だった。しかし昨季32・8%だった3点シュートの成功率は一時期50%を超え、最終的には44・7%。オフェンス・スタイルはNBA3シーズン目でガラリと変わった。

 スポーツ専門局のESPNの3点シュート部門の記録では、最低82本の成功数をクリアした選手のみを掲載しているために「成功率部門」でも八村の名前は出てこないが、スポーツの予想とデータ専門サイトの「チームランキング・ドットコム」では最低成功本数を「55本に達しそうな選手」に設定。前日まで45・4%の八村は、ESPNトップのルーク・ケナード(25=クリッパーズ)の45・0%を上回って“陰の1位”に立っていた。ウィザーズの今季の3点シュート成功率はリーグ25位の34・2%。八村はこれを10ポイントほど上回ったことになる。

 その「チームランキング・ドットコム」での最低成功本数にホーネッツ戦の最後のプレーで到達。ただし大幅にアップした3点シュートの成功率とは対照的に、“下降曲線”を描いた部門もある。

 最も顕著なのはオフェンス・リバウンドの減少だろう。3点シュートの成功率が上がったゆえに、キックアウトされるボールをコーナーやアウトサイドで待機するケースが多く、必然的に他の選手がシュートした場合にはリングから遠い位置にいるためにリバウンドを拾うチャンスは少なくなった。

 NBAデビューからの3シーズンにおける1試合平均の3点シュート試投数は0・97→1・81→2・93と増えているが、オフェンス・リバウンドは1・63→0・86→0・60と減少。“立ち位置”を考えれば仕方のない数値がここに出ている。

 現在バックスに所属するセンター、ブルック・ロペス(34)はネッツでデビューした2008年から2015年シーズンまでほとんど3点シュートを打たなかったが(試投数は合計31本)、2016年シーズンでは387本放って134本成功。その一方でオフェンス・リバウンドは前年の2・8から1・6に激減しており、八村にも同じような傾向が出ていた。

 ウィザーズの1試合平均のオフェンス・リバウンド数は8・9でこれは30チーム中28位。セカンド・チャンスを得られないことが負け越したチーム成績にも直結しており、八村にも3点シュートの成功率を維持した上で、もうひと頑張りが必要になるだろう。

 一方、3点シュート成功率の上位選手とは違った側面が八村にはある。45・0%で「ESPN1位」のケナードの1試合平均試投数は5・99本で、43・6%で2位のデズモンド・ベイン(23=グリズリーズ)は6・88本、43・3%で3位のタイリース・マキシー(21=76ers)は4・12本を放っている。それに比べると八村の2・93本は成功率で上位に名を連ねる選手の中ではダントツに少ない。

 試合の出だしで2、3本続けて入らなかった場合、八村はオフェンスのパターンをすぐに変更。ミドルレンジでのプルアップからのジャンプシュート、もしくはインサイドを突いてゴール下での勝負に切り換えている。コーチ陣の指示なのか本人の意思なのかはわからないが、そこにまだ技術的な課題を抱えているような気配が見え隠れしている。

 フリースロー(FT)にも触れておきたい。3シーズンの成功率はデビュー時の82・9%から77・0%→69・7%と、3点シュートとは対照的に年を追うごとに低下している。FTでケナードは89・3%、ベインは90・3%、マキシーは86・2%といずれもハイアベレージを記録しているが、八村は「3点シュートは入っても距離の短いフリースローの精度は低い」という矛盾した特徴を持ち合わせている。

 多くのシューターは距離に柔軟に対応できるが(だからこそ確率は高い)、八村はいったん“3Pモード”に体(とくに腕と肩)をなじませてしまうと、3点シュートラインより2・7メートルほど短いフリースローラインへの対応がすぐにはできないのではないだろうか?車で言えばすぐにギアが切り替わらない状態。あくまで推測なのだが、その部分に“柔らかさ”が出てくれば、さらなる高みに行ける可能性もある。

 フリースローラインに立つ回数も1試合平均で2・92→2・83→1・57と減少。インサイドよりアウトサイドに活路を見い出したために受ける反則数が減少したのだとは思うが、ここも今後の活躍を期待する上で改善してほしい部分だ。

 ブロックショット数は42試合で9。初年度8、2年目は7だったのでこれは自己最多記録でもあるのだが、フォワードの他の選手と比較すると圧倒的に少ない。1試合平均0・21はチームの中でも14番目の成績。デビュー時からブロックを試みる際に膝を深めに曲げ、両手をいったん下げてから反動を利用してジャンプする部分が気になっていたのだが、おそらくこれが相手選手のリリース・ポイントへの到着がほんのわずか遅れている原因だと思う。“現場到着”が遅いためにボールが頂点を過ぎたり、バックボードに接触したあとに触ってゴール・テンディングをコールされる場面は今季も再三にわたって見受けられた。

 検索してみると身長203センチの八村のウイングスパン(両手を広げた長さ)は7フィート1・5インチ(約217センチ)と出ていた。これは今季66試合で57のブロックショットを記録しているチームメートのクーズマ(206センチ)より3センチほど長い。身体的に不利な部分は何も見られないのだ。

 八村だけでなく、7フィート(213センチ)を超える“ビッグマン”ではない選手にとって、ブロックショットのお手本になる存在が1人いる。それが今季トレイルブレイザーズとクリッパーズに在籍した201センチのロバート・コビントン(31)。彼のウイングスパンは八村と同じ。それでいてコビントンは今季70試合に出場して91のブロックショット(1試合平均1・3はリーグ13位)を記録している。

 リリース・ポイントでの阻止だけでなく、ボールを引き上げる段階ではたき落としてもブロックショット。「守備のスペシャリスト」と呼ばれる選手の1人でもあるコビントンはマッチアップした選手に対しては常に(執ようなまでに?)体を寄せているから、はたき落とすこともできれば、正面からクリーンに相手のシュートをブロックすることも可能。ペイント内ではシュート態勢に入った相手選手の視野に入らない背後からボールに接触するなど、ありとあらゆる方法を駆使してくる。

 それだけディフェンスで労力を費やすとシュートの精度は落ちると思われるかもしれないが、今季の3点シュート成功率は37・4%。きちんと標準レベルはクリアしている。

 八村は実によく頑張っている。それは見ていてよくわかる。しかし「優秀な選手」から球宴クラスの「スーパープレーヤー」に変貌を遂げるには、現状に満足しないあくなき向上心が必要だろう。それができる選手だと思うからこそ、今季に顔をのぞかせた“負のデータ”を来季はぜひとも消去してほしい。前進するための学習材料はコビントンを筆頭に、NBAにはいくらでも存在していると思う。

 ◆高柳 昌弥(たかやなぎ・まさや)1958年、北九州市出身。上智大卒。ゴルフ、プロ野球、五輪、NFL、NBAなどを担当。NFLスーパーボウルや、マイケル・ジョーダン全盛時のNBAファイナルなどを取材。50歳以上のシニア・バスケの全国大会には7年連続で出場。還暦だった2018年の東京マラソンは4時間39分で完走。

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