ナイキ厚底 1強に待った!五輪1年延期でシューズ開発競争“加速”

[ 2020年6月16日 05:30 ]

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アシックスの最新シューズ「メタレーサーTOKYO」

 ナイキの厚底シューズが陸上長距離界を席巻しているが、国内メーカーも手をこまねいているわけではない。延期となった20年東京五輪に向けて開発していた最新モデルを続々と投入。長距離界のスタンダードになりつつある厚底路線にはあえて乗らず、独自技術を取り入れた新作で失地回復を狙っている。五輪延期によって開発競争の加速も予想される中、国内メーカーの“反撃”を追った。

 【アシックス…厚さではなく反り】
 3月1日の東京マラソンで2時間5分29秒の日本新記録を樹立した大迫傑(29=ナイキ)が履いていたのがナイキの最新モデル「エアズームアルファフライネクスト%」だった。大迫の快走でナイキ厚底シューズへの評価が一層高まったが、国内メーカーも負けてはいない。厚底にこだわらず、独自技術でナイキ1強時代にくさびを打ち込もうとしている。

 アシックスは今月12日、カーボンプレート搭載の新型ランニングシューズ「メタレーサーTOKYO」を先行発売した。開発を担当した同社スポーツ工学研究所の仲谷政剛氏(39)は「従来品とは違う革新的なシューズを目標に開発をスタートさせました」と振り返る。

 開発には通常の倍の4年間を費やした渾身(こんしん)の一足だ。同社が目を付けたのは流行の厚底ソールではなく前足部の“反り”だった。前足部にカーブ形状の角度をつけたことで、地面を蹴る時に効率よく推進力を獲得できるという。それによってふくらはぎや足首への負担を20%軽減。角度は企業秘密だというが、仲谷氏は「足首周りの負担軽減は他社に対する強みです」と胸を張る。同社ではメタレーサーを厚底シューズとして分類しておらず、仲谷氏は「厚さありきの設計ではない。選手が高速で走ることを突き詰めた結果、この形になった」と位置付けている。

 【ミズノ…薄底で「本気の反撃」】
 「本気の反撃」と公式サイト上で衝撃的なプロモーションを打ち、“薄底”の新作を今夏発売するのがミズノだ。厚底全盛時代に意外な戦略にも思えるが、同社の益子勇賢氏(29)は「(後発なので)同じ土俵で同じシューズを作っても負けてしまう。対極のポジションは何かと考えていた」と狙いを語る。

 今年の箱根駅伝10区、厚底が多数を占める中で区間新記録をマークした嶋津雄大(創価大)が発売予定の「プロトタイプ(試作品)」を履いていたことで注目を集めた。同社は五輪と同じく箱根駅伝も巨大市場と捉えていて、この5年で急激に落ち込んだ箱根駅伝のシェア逆転を見込んで試作品を投入。益子氏は「完成度は昨夏の段階で6割だったが、箱根駅伝で仕上げられた」と手応えをつかんだという。

 形状も独特だ。靴下をはいているようなハイカットで靴底はナイキに比べると格段に薄い。ソールは厚くなると扱いにくくなるという点に着目し「ロード用のスパイク」というイメージで操作性を重視。グリップ力は学生からも好感触だったといい、益子氏は「ミズノなのにミズノらしくないという評価をもらった時、これでいけると確信しました」と笑顔を見せる。

 五輪延期で現行品をさらに改良して21年に発売する可能性もある。20年夏モデルはそのまま発売するが、アシックスの広報担当者は「出来上がったものは変えられないが、1年延期をポジティブに捉えて改善できるものは改善していく」としている。ミズノの益子氏も「来年度以降に向けて多くの声を集めることができる」と前向きに捉えている。

 エヌピーディー・ジャパンが発表した19年スポーツシューズ・アパレル市場調査によると、19年スポーツシューズ市場は6908億円で前年比6・1%増と拡大傾向で、東京五輪は1年延期となったものの五輪本番まで開発競争がさらに加速することは確実。益子氏は「夏から徐々に反撃を始めていきたい」と自信を見せる。“シューズ狂騒曲”はまだまだ続きそうだ。

 《作業服大手ワークマンも“参入”》ランニングシューズを開発しているのはスポーツメーカーばかりではない。作業服大手ワークマンも今春発売した「アスレシューズハイバウンス」で“厚底戦線”に参入した。

 「疲れにくいシューズを作ってほしい」。開発責任者の柏田大輔氏(45)はユーザーから多く寄せられる要望をきっかけに、新作の厚底開発に着手。「ミッドソールに厚みとクッション性を持たせて、長期間履いてもへたりにくいというコンセプトで突き詰めた」と振り返る。

 驚きなのは1900円という低価格にもかかわらず、高反発ソールで楽に走れるということだ。白と黒の2色展開に絞るなどしてコスト削減を実現した。「あくまで長時間履いても疲れない靴。レース用ではなく、普段のジョギング向き」と柏田氏。市民ランナーの評判を呼び、品薄が続いているという。

 実証テストで500~600キロ走ってもへたらないという高反発ソールは中国の物理工学の研究チームと共同開発。今後はソールをランニング用だけではなく、主力商品の作業靴に転用するという展開も視野に入れる。ヒットを受けて次回作の構想にも着手している。柏田氏は「カーボンプレートを入れるまではいかないが、第2弾は推進力をテーマにできればと思っている」と展望を語った。

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