驚きはなかった福岡堅樹の五輪断念 “高校生へのエール”に感じた生き方、思考法

[ 2020年6月16日 08:00 ]

オンライン記者会見に臨む福岡堅樹
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 その時、双眼鏡で覗いた福岡の表情は、色を失っていた。昨年9月6日の南アフリカ戦。前半4分に右ふくらはぎを痛めて交代。W杯開幕は2週間後に迫っていた。15人制代表としては集大成の大会。ましてや4年前の15年イングランド大会は1試合の出場にとどまっており、期する思いは人一倍だったであろう。しかしあまりに深刻そうな表情に、見ている側は「アウトか?」と嫌な予感が頭をよぎった。

 その後の復活劇は、ラグビーの虜になった日本中のファンが知っての通り。開幕ロシア戦を欠場し、9月28日のアイルランド戦は当初メンバー外も、ウィリアム・トゥポウの故障で急きょリザーブ入り。そして途中出場から逆転トライを奪った。後半終了間際、インターセプトから相手陣を独走してダメ押しトライかと思われたシーンでは、インゴールまで5メートルのところで相手WTBアールズにつかまった。決して万全な状態ではなかった中で、千両役者ぶりを見せた。

 1年延期となった東京五輪出場を断念し、14日に行ったオンライン記者会見で、福岡はすでに五輪延期が決まった3月24日ごろには、自分自身の中で答えを出していたことを明かした。その当時から代表やチーム関係者らを取材し、いち早く福岡の意向をつかもうとしていた立場としては、まさしく“完敗”。一方でこれまでと同様、冒頭のあいさつや質疑で淀みなく発せられる考えを聞いて、妙に納得させられた。

 はたから見れば、コロナ禍で競技人生を狂わされたかに思う。しかしラグビーに取り組む高校生らへのエールを求められると、「自分でコントロールできないことを受け入れて、今の自分に何ができるかフォーカスしてほしい」と答えた。それは福岡自身が実践している生き方であり、今回の選択を導いた思考法だったように思う。

 冒頭の南ア戦での交代劇、実は福岡自身がピッチレベルのチームスタッフを通じて申し出たもので、アイルランド戦後に「無理していたら大きなケガになっていたかもしれない。気づけて良かった」と語った。瞬時にあらゆる状況を見極め、最適解を導き出す。そして気持ちを切り替え、次の目標へ向かう。誰もが真似できるような芸当ではないが、この8年あまり、折に触れて取材で接してきただけに、今回の五輪断念も驚きはなかった。

 今後、福岡並みに速い選手は出てきても、福岡のようなキャリアパスを描く選手は出てこないかも知れない。そんな時代に出合えたことに感謝しつつ、ラグビーキャリアを完全燃焼させるための試合が無事開催されることを切に願いたい。(記者コラム・阿部 令)

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