サーフィン成功の鍵を握る観客との“距離感” 杓子定規ではない競技運営を

[ 2017年10月3日 10:42 ]

サーフィンの世界ジュニア選手権最終日、男子16歳以下の部で優勝し、他の代表選手に担ぎ上げられた安室丈(中央、黄色のウエア)を取り囲むファン
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 スポーツに大切なのは立派なハコモノ以上に観客の醸す雰囲気なのだと、サーフィンの世界ジュニア選手権を通じて再認識した。

 宮崎県延岡市のお倉ケ浜海岸で行われた今大会。取材したのは9日間という長丁場の大会の終わりの2日間だけだったが、大いに盛り上がった。まず9月30日には個人で争われる本戦ではないものの、リレー方式の国別対抗戦「アロハ・カップ」が行われ、日本が見事に優勝。10月1日の最終日には男子16歳以下の部で安室(あづち)丈が全部門を通じて日本人で初優勝の快挙を成し遂げた。地元選手の活躍も、もちろん大切な要素だ。

 トッププロの国際大会を含めて、一般的にサーフィンの大会は無料で観戦できる。大会用に設営されるのは大会運営者や審判員用のプレハブくらいで、いわゆる観客用の座席はない。その代わりに競技の邪魔さえしなければ、波打ち際で観戦することもできる。競技を終えた選手にその場でハイタッチやセルフィーを求めるのも可能。会場への出入りも自由だし、今回はイベントブースで競技と同時進行で催し物が休みなく行われた。

 安室が優勝した直後には、他の日本選手が駆け寄って祝福し、さらに幾重にもファンが取り囲んだ。まるで神輿のように担ぎ上げられた安室の“ウイニングウオーク”とともに、ファンも文字にできないような声を上げて練り歩く。観衆はおそらく2000人程度。それでもまるで数万人が熱狂するスタジアムのような雰囲気が生まれるのは、選手と観客の距離の近さならではだろう。

 3年後の2020年東京五輪。サーフィンという競技そのものが成功を収められるかどうかも、この距離感が鍵を握ると考える。もちろん、そうはいかない事情もたくさんある。会場には客席が設置され、有料チケットが販売される代わりに、観客が砂浜を自由に歩き回れる可能性は低い。他競技と同様の公正な競技運営やドーピング問題を考慮すれば、競技直後に選手と観客が接触するのはまずいだろう。しかしそれでは、本来のサーフィン文化の魅力を伝えるのは難しくなる。

 国際サーフィン連盟や日本サーフィン連盟も、3年を切った本番で、できるだけ本来の形式を五輪に持ち込みたいというのが本音のようだ。幸い、最終日を視察した東京五輪・パラリンピック組織委員会の室伏広治スポーツ局長からは「雰囲気がいい。そういうものを含めて(五輪に)持っていくことを目的にしている」と背中を押す発言を聞くことができた。

 元々、国際オリンピック委員会(IOC)が開催国独自の追加種目を認めたのも、若者のスポーツ離れに歯止めを掛ける目的があった。会場に音楽がかからず、DJが観客をあおらず、観客がお行儀良く座席で観戦し、選手と触れ合うこともままならないようでは、画竜点睛を欠くようなもの。サーフィン文化の素晴らしさが広く伝わるためにも、ぜひ杓子定規ではない競技運営が実現することを望みたい。(阿部 令)

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2017年10月3日のニュース