男子マラソンに今必要なのは「安藤スピリット」ではないか

[ 2017年3月30日 10:00 ]

世界陸上マラソン日本代表選手会見のフォトセッションでポーズをとる(左から)中本、川内、井上、安藤、重友、清田
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 【藤山健二の独立独歩】8月にロンドンで開催される世界陸上選手権の男女マラソン代表6人が決まった。久々にメダルへの期待が高まる女子に比べ、男子の評価は相変わらず芳しくない。選考レースで一番いいタイムだったのが2時間8分22秒の井上大仁(MHPS)ではそれも仕方がない。だが、世界選手権はペースメーカーがいないので、普段のレースよりもペースが遅くなる。優勝タイムも2時間7〜8分くらいまで下がるのが普通だから、日本勢にもまったくチャンスがないわけではない。

 そこで思い出されるのが名古屋での安藤友香(スズキ浜松AC)の走りだ。初マラソンだった安藤は「勝負するにはとにかく先頭について行くしかない。後半なんかどうでもいい」とリオデジャネイロ五輪銀メダルのキルワ(バーレーン)に食らいつき、見事日本歴代4位の好記録をマークした。経験豊富な川内優輝(埼玉県庁)や中本健太郎(安川電機)は自分と相手の実力差、コースや気象条件などをインプットすれば自ずとレース展開が読めてしまうに違いない。それがベテランの味でもあるのだが、できることをやっているだけではいつになっても限界は超えられない。ならば無理を承知で前半から先頭集団に食らいつき、先のことは考えずに行けるところまで行く。一度でいいからそんなレースをしてみたらどうか。

 23歳の安藤は実際にそれをやってのけたのだ。もちろん、初マラソンで怖さを知らないがゆえの快走だったのは確かだが、同じことが男子選手にできないはずはない。「安藤スピリット」で首尾よく後半まで先頭集団内で粘れれば、その時こそ川内や中本の豊富な経験が生きるはずだ。無責任な言い方かもしれないが、それで後半つぶれたらつぶれたで仕方がない。最初からメダル争いに参加しないまま終わるよりよっぽどましだろう。

 先頭集団に食らいつくために走力アップは欠かせないが、他にもできることはたくさんある。リオデジャネイロ五輪の際に有森裕子さんが指摘していたが、集団内での位置取りや給水の取り方、カーブの曲がり方などをちょっと工夫するだけでも十分効果がある。ほんの数秒、数メートルの短縮でも42・195キロになると大きな差になるのだ。日本には有森さんや高橋尚子さん、野口みずきさん、そして男子にもかつて世界を制した名選手がたくさんいる。技術論でも精神論でもなく、世界と戦った選手にしか分からない経験や知識を具体的に今の選手に伝えてあげることは大きな意味があると思う。ナショナルチーム合宿でやるべきことはまさにこの「財産分与」ではないかと思うのだが…。(編集委員)

 ◆藤山 健二(ふじやま・けんじ)1960年、埼玉県生まれ。早大卒。スポーツ記者歴34年。五輪取材は夏冬合わせて7度、世界陸上やゴルフのマスターズ、全英オープンなど、ほとんどの競技を網羅。ミステリー大好きで、趣味が高じて「富士山の身代金」(95年刊)など自分で執筆も。

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