石川遼の復活Vサポート クラブメーカー担当者のこだわりとは

[ 2016年9月13日 09:25 ]

RIZAP・KBCオーガスタ最終日の18番、ウイニングパットを沈めガッツポーズする石川遼

 【福永稔彦のアンプレアブル】男子ゴルフの石川遼(24=CASIO)が、腰痛による長期離脱から復帰2戦目となった8月下旬のRIZAP・KBCオーガスタで今季初優勝を飾った。7月上旬の復帰初戦、日本プロ選手権は予選落ちしており、その後、1カ月半のブランクを経ての戴冠だった。

 その1カ月半の間に石川はクラブのシャフトを交換するリシャフトを行った。日本プロ選手権の直後に、まずドライバーをリシャフト。アイアンについても、7月下旬に以前のモデルよりも先端部分が柔らかく球のつかまりが良いシャフトに入れ替えた。このリシャフトが復活優勝を後押しした。

 プロゴルファーがクラブやシャフトを替えるのは、非常にデリケートな作業だ。そして、プロをサポートするクラブメーカーの担当者にとっても神経を使う仕事である。

 石川を担当するキャロウェイゴルフの石井尚さん(39)は「新しいクラブやシャフトを試す時は第一印象が大切なんです」と話す。

 クラブの試打と言えば練習場で何球も打って感触を確かめるものだと考えていたが、そうではない。石井さんは「僕はコースで一発勝負と決めています」と言い切る。

 そして「レンジ(練習場)だと何発も打てるからプロはだんだんクラブ(やシャフト)に合わせてしまう。その時はいいけど、少しずつストレスになっていて試合で気持ち良く打てなくなる」と説明する。

 「(石川は)1グラムの違いも分かってしまうくらい鋭い感覚を持っている」と話す石井さん。クラブやシャフトを石川の好みに微調整して、試打ラウンドに間に合わせる。

 娘をお見合いに送り出す母親のような役割と言えば良いだろうか。手塩にかけて育てたまな娘に似合う服を選び、化粧を施し、好印象を与える立ち居振る舞いを教える。相手に見初めてもらえるように一生懸命。そんな姿が石井さんと重なる。

 「アイアンのシャフトは何種類か試したのですが、今のシャフトは一発で気に入ってくれたんですよ」。“お見合い”で石川のハートを射抜いた石井さんは満足そうに振り返った。

 ちなみにドライバーのシャフトは石井さんが使っていたものを「それ、いいですね」と借りて“一目ぼれ”。そのまま投入を決めた。石川にとってやはり第一印象は重要なようである。

 トーナメントで石川のラウンドに付いて回ると、ロープの外から見守り、ショットのたびに真剣な表情でメモを取る石井さんを必ず見かける。こんな人がいるからこそ石川はゴルフに集中できるのだ。

 今年1月27日、米ツアーのファーマーズ・インシュアランス・オープン(カリフォルニア州)開幕前日が、石井さんの39歳の誕生日だった。石川の練習終了後、石井さんがクラブを積み込もうと車のリアゲートを開けたところ、ラッゲージスペースにバースデーケーキが置かれていた。石川が音頭を取り、佐藤賢和キャディー、小瀬悠輔マネジャーが用意したサプライズだった。石井さんは本当にうれしそうに涙を拭っていた。「チーム石川遼」はそういうちゃめっ気のある温かい人たちによって成り立っている。(専門委員)

 ◆福永 稔彦(ふくなが・としひこ)1965年、宮崎県生まれ。宮崎・日向高時代は野球部。立大卒。Jリーグが発足した92年から04年までサッカーを担当。一般スポーツデスクなどを経て、15年からゴルフ担当。ゴルフ歴は20年以上。1度だけ70台をマークしたことがある。

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2016年9月13日のニュース