「いちえふ」作者・竜田一人さんインタビュー 福島第1原発ルポ漫画家が感じた「長い戦い受け入れる強さ」
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2万2000人以上が犠牲になった東日本大震災の発生から15年を迎えた11日、各地で追悼式典が行われた。福島第1原発の廃炉作業に従事した経験を描いたルポ漫画「いちえふ」の作者・竜田一人さん(61)は“果てしない戦い”への思いを語った。
「一言で言うと、驚くほど奇麗になった」
昨夏かつての“職場”福島第1原発の構内を約10年ぶりに視察した竜田さんの感想だ。震災翌年から視察も含め10回近く現地入り。
「ガレキだらけで津波の爪痕も生々しかったのに、今は構内の道路も舗装されて普通の工事現場のよう。原子炉3号機の横をこんな格好で歩いていいのかと驚いた」
タイベック(全身防護服)、ゴーグルと一体化した、いかつい全面マスクが必須だった場所も普通の作業服と「普通のマスクのちょっといいやつ」で歩けた。
廃炉への長い道のりを身をもって知る人だ。東電と政府は51年の廃炉完了を掲げている。1~3号機に溶け落ちた燃料デブリは推計880トン。だが今夏投入予定のロボットが1回で取り出せる量は耳かき1杯分。それでも表情は明るい。
「いつ終わるのかと途方に暮れる感覚も以前はありましたが、現場で一つずつ進む作業を見ると“いつか終わる”という現実的なイメージが持てました」
はるか遠くに見える点のような光。そこに向けて一歩一歩を重ねる人たちがいる。「現場の人に“いつか終わりそうですね”と話したら“自分が生きてる間は終わらないだろうけどね”と笑われた。絶望でなく、長い戦いを受け入れる強さを感じた」と笑顔を見せた。
漫画「いちえふ 福島第一原子力発電所労働記」は13年発表。「決死隊」「地獄」という言葉で語られがちだった廃炉作業のリアルを誇張せず淡々と、緻密に描いた。どんな職場にもある仕事の面白さや仕事人のプライド、人情。そして高線量の特殊な現場ならではの緊張感は国内外で大きな反響を呼んだ。
神奈川県出身。「売れない漫画家」だった自身が廃炉に関わったのは「仕事がなかったのと、福島への差別的な報道を見て湧いた義(人ベンに峡の旧字体のツクリ)心(ぎきょうしん)が少し」と振り返る。現地では3号機廃棄物処理建屋内の「使用済み燃料プール循環冷却系配管補修工事」などに従事。漫画にしたのは「世間のイメージと現場のギャップを埋めたかった」からだ。同時期に発表の人気漫画で、主人公が福島第1原発を視察後に鼻血を出す描写が物議を醸したことに「そんな人を見たことはないから驚いた」と振り返る。
事故から15年。「いちえふ」が過度な恐怖心を和らげ、風評被害を減らすのに貢献したとの自負もある。世間の関心が薄まった寂しさも感じつつ「変な恐怖心が消えたという意味では、いい感じで風化しているかな。いちえふが“日常の風景”になりつつあるのは、復興の一つの形」とプラスに捉えている。
視察の帰り道、双葉町や大熊町の駅前に立ち並ぶ公営住宅を眺め感傷に浸ったという。廃虚のようだった街に戻った人の営み。「福島に元々縁はなかったけれど、今は知り合いも増えて、いい物件があれば住んでみたいと思っている」。趣味のギターを手に飲食店での演奏などを続けている。廃炉との戦いは果てしなく続くが“その日”を心待ちにしながら、福島と共に歩いていく。(井利 萌弥、岩田 浩史)
≪国内40万部発行≫「いちえふ」は1Fで福島第1原発の略称。単行本は計3巻、国内で累計40万部が発行された。英語やフランス語など7カ国語で翻訳出版。19年には大英博物館のマンガ展にも展示されて話題を呼んだ。竜田さんは、素性が分かると作業しにくくなるとの理由からレスラーのようなマスクをつけた“覆面作家”として活動してきたが、2月に文庫版上・下巻で復刻されたのを機に、素顔で活動している。











