熊本地震から10年…巻誠一郎氏 故郷と走り続けた日々「人の強さと優しさで熊本は前を向いている」
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震度7の揺れに2度見舞われた熊本地震の発生から、14日で10年となる。熊本県出身で当時J2熊本所属だった元日本代表FW巻誠一郎氏(45)がスポニチのインタビューに応じ、自らも被災した10年前の記憶を振り返り、復興のために走り続けてきた日々を語った。(取材・構成 坂本 寛人)
16年4月14日。その夜は実家のある宇城市にいた。強烈な揺れを感じたのは、サッカー教室の指導が終わったころだった。普段はやんちゃな子供たちがおびえる顔を見て「ただごとじゃない」と感じた。宇城市は震度6弱。益城町は震度7を観測した。16日未明。再び激しい揺れが襲う。これが本震だった。
「一瞬の出来事で何が起こったか分からない。サッカーもできなくなるんじゃないかと。揺れの怖さ、今までの生活がなくなってしまうんじゃないかという怖さは、今でも思い返すとありますね」
日常を取り戻そうと必死に動いた。16日のうちに支援団体を立ち上げた。全国にいる知り合いを頼り、情報網を駆使して福岡から物資を調達した。本震から3日後の19日には益城町の避難所を初めて訪れ、子供たちとボールを蹴った。「途方に暮れているような方たちも外に出てきてくれて、子供の笑顔を見たら元気をもらったと言ってくれた。スポーツは嫌なことを忘れられる。スポーツの力も捨てたもんじゃないなと」。避難所の訪問は発生から3カ月で計300回を超えた。たとえ小さな支援でも、何度も繰り返すことに意義があると気付いた。
サッカーの傍らで復興支援を継続し、18年限りでスパイクを脱いだ。セカンドキャリアは社会貢献活動が中心。22年から日本サッカー協会の防災・復興支援委員長を務めた。24年1月に発生した能登半島地震では、細部まで支援が行き届かなかった熊本地震の反省を生かして体制づくりに奔走した。
自然災害は各地で起こる。10年がたち、改めて思う。
「まさか自分たちが、まさか熊本が、という思いで地震を経験した。それでも前を向かないといけない。時間がかかった方もいると思うけれど、人の強さと優しさで熊本は前を向いていると思います」
地震直後はサッカーどころではなかったが、当時J2の熊本は発生から18日後の5月2日にようやく全体練習を再開した。リーグ戦は5試合中止となり、同15日のアウェー千葉戦で復帰した。「熊本に元気を与えたい」と懸ける思いは強かったが、結果は0―2の完敗。練習不足は否めず、カップラーメン生活が続くなどコンディションも整っていなかった。巻氏は「みんな必死にやりましたけど、気持ちだけで何とかできるほど甘い世界じゃない。サッカーというスポーツは正直なんだなと。それを再確認した」と振り返る。
勝負の厳しさとともに、サッカーファミリーの温かさを知った。千葉応援席からも声援が飛び、止まりかけた足は何度も動いた。「あんなにたくさんの人が敵味方関係なく応援してくれたことは、人生の中であの試合ぐらいだった」。復興の一歩を踏み出した90分間は、今も胸に刻まれている。
≪メンバー発表直前の“心構え”「全力を尽くした延長にW杯」≫巻氏といえば06年W杯ドイツ大会のサプライズ選出が有名だ。エース格の久保竜彦が落選する中、利き足は頭と言うほどのヘディングの強さ、ゴール前の泥くさいプレーを買われて滑り込み。発表会見でジーコ監督が「マキ」と最後に読み上げるとどよめきが起こった。森保ジャパンのFW陣も上田を筆頭に小川、町野、後藤、塩貝と競争は熾烈(しれつ)。巻氏は当時を振り返りながら「自分の力でどうにもならないことにエネルギーを使うのはもったいない。その時その時で全力を尽くした延長にW杯があると思う」とメンバー発表直前の心構えを語った。
◇巻 誠一郎(まき・せいいちろう)1980年(昭55)8月7日生まれ、熊本県小川町(現宇城市)出身の45歳。大津高、駒大から03年に市原(現千葉)に入団。05年に日本代表に初選出され、06年W杯ドイツ大会に出場。ロシア1部アムカル、中国1部深セン、東京Vを経て14年から熊本でプレー。18年限りで現役引退。国際Aマッチ38試合8得点。1メートル84。現在はサッカークラブ「カベッサ熊本」の運営やNPO法人「ユアアクション」の代表として幅広く活動中。
▽熊本地震 16年4月14日午後9時26分に熊本地方でマグニチュード6.5の地震(前震)が発生し、益城町で震度7を観測。16日午前1時25分にはマグニチュード7.3の地震(本震)が発生し、益城町と西原村で震度7、九州地方の各県でも強い揺れを観測した。同一地域で28時間のうちに2度の震度7を記録するのは観測史上初めてだった。建物倒壊などによる直接死は50人で、災害関連死を含めると犠牲者は270人超に上る。熊本城も甚大な被害を受けた。
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