馬のトレーニング足元からサポート トレセン“縁の下の力持ち”の徹底した馬場管理

[ 2020年8月18日 05:30 ]

夏競馬の自由研究

栗東トレセン調教コース全景(左から坂路、Eコース、Dポリ、D芝コース、CWコース、Bコース、障害コース)(撮影・亀井 直樹)
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 競走馬には毎日のトレーニングが欠かせない。昨年11月で栗東トレーニングセンターは開設50周年。常に細心の注意を払って調教コースが管理されているからこそ、数多くの名馬が安心して調教で汗を流せた。「夏競馬の自由研究」では、夏場の散水や補修など、馬場管理に携わっているスタッフに注目。馬の安全を支える“縁の下の力持ち”である同トレーニングセンター馬場造園課の峠口侑哉(とうげぐち・ゆうや)馬場係長に、馬場管理について話を聞いた。

 ――坂路について。

 峠口氏「全長1085メートルで、タイムが計測される区間は800メートル。傾斜はスタートから300メートル地点までが2・0%、その後は3・5%の傾斜が570メートル。ゴールから100メートルはさらに傾斜がきつく4・5%。安全にスピードを落とせるようになっています。特に負荷がかかるのは、タイム計測区間においてゴール手前570メートル(3・5%)を過ぎた地点からになります」

 ――厩舎関係者の評判はどうか。

 「栗東トレセンの逍遥(しょうよう)馬道は高低差36・7メートル、最大勾配10・67%と起伏が激しく、“歩いているだけでトレーニングになる”という声を聞いています。それに加えて“坂路はタイム計測区間も800メートルの距離を確保できており、トレーニングしやすい”との声もあります」

 ――栗東トレセンの馬場管理について。

 「ウッドチップのコース(坂路とCW)とダートのコースについてお話しします。材料(ウッドチップ)の厚みや排水性を確保するために、材料の入れ替えは季節を問わず行っています」

 ――季節によって管理の仕方が違うとか。例えば夏場の管理は。

 「夏というより冬場以外ですね。その時期は主に降雨の時の対応、対策に力を入れています。坂路や逍遥馬道は傾斜がきつくなっており、大雨で材料(クッション層)が流れてしまうことがあります。そうならないように、日頃からこまめに厚みを管理して、排水性の悪い箇所はウッドチップを入れ替えます。ダートは雨で流れ出た部分に砂の補充や、雨で傷めた路盤の補修をしています。こうした日々の管理で、梅雨や台風に耐えられる馬場になっています」

 ――冬場の管理は。

 「ウッドチップが細粒化した箇所は凍結のリスクが高まるので、変化を見極めながら入れ替えます。ダートは凍結防止剤を散布します。いずれのコースも冷え込みが強い日はハロー(馬場整地)をかけ続けて、凍結しないように心掛けています」

 ――ウッドチップの入れ替えについて。

 「例年、坂路は年2回(基本は春と秋)、CWは年1回(夏から秋)入れ替えます。少し前にCWコースの入れ替え作業を行いました。時期については、ずれる場合もあります」

 ――入れ替えた直後に何らかの変化は。

 「入れ替えた直後はウッドチップは軟らかい状態になって、時計がかかりやすくなる傾向があります。なお入れ替えの作業ではコースを閉鎖しません。夜間までに及ぶ十分な転圧を繰り返し整備をしています」

 ――近年の競走馬は能力が向上したか。

 「正直、馬場的な目線で能力に言及するのは難しいです」

 ――最後にひと言。

 「我々馬場造園課としては、毎日多くの馬がコースを利用するにあたり、ケガなく安全に調教を行えるように馬場管理を徹底しています。そのように仕上げたコースでのトレーニングの結果、能力の底上げになっていればうれしく思います」

 ≪利用頭数が最も多いウッドチップの坂道≫坂路 トラックコースの奥にあるウッドチップの坂道。現在、最も利用頭数が多い。逍遥馬道という曲がりくねった馬の“散歩道”を通って、坂路のスタート地点に向かう。全体の高低差は32メートル(タイム計測部分の高低差は26メートル)。美浦坂路より勾配は大きい。タイム計測開始地点から230メートルで“く”の字に右カーブし、残り570メートルが直線。タイムはICチップを用いて計測している。

 ≪6つのコースで調教≫栗東トレセンの調教コースは坂路と6つのトラックコースから成り立っている。ウッドチップを敷き詰めた坂路とCWコースで調教する馬が大半だ。

 Aコース(障害) 障害数は6つ。毎週木曜日に障害試験が行われている。

 Bコース(ダート) 天候により馬場状態が大きく変化する。

 CWコース(ウッドチップ) ウッドチップ馬場で、材料はアカマツとスギ。クッション性、排水性に優れ、馬の脚にも優しい。21年末までに、調教タイムの自動計測を導入予定。

 Dコース(芝) 野芝を使用。

 DPコース(ニューポリトラック) 気象条件の影響を受けにくく馬場状態が一定。積雪しやすく降雪時は開場できないことも。

 Eコース(ダート) 発走試験が行われる。

 ≪西園厩舎個性でコース使い分け≫管理馬の多くを坂路、CWコースでトレーニングする西園厩舎。それぞれのコースの使い分けを西園師に聞いた。「コーナーの感覚や手前の替え方などを覚えさせる意味で、デビュー前の2歳馬は必ず1~2回、CWコースへ入れます。坂路では心肺機能を鍛えます。体ができてくれば2歳馬でも追い切りますよ」と説明。明確な意図をもって調教コースを選んでいるのが分かる。最後に「丈夫な馬の方がコースでしっかりと調整するかな。その馬の個性を生かすように調整の方法を変えながら調教を行っています」と語った。

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