【天皇賞・春】キセキ95点!アマビエ宿る輝き

[ 2020年4月28日 05:30 ]

古豪ステイヤーのキセキが2年半ぶり完全復活だ
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 盾決戦に断を下すのはコロナ禍も封じるアマビエの光沢だ。G1馬体診断でおなじみの鈴木康弘元調教師(76)が「達眼・特別編」で天皇賞・春(5月3日、京都)の有力候補をボディーチェック。17年の菊花賞馬キセキを1位指名した。達眼が捉えたのは疫病よけの妖怪アマビエを想起させる毛ヅヤの輝きと、馬の魔よけで知られる木ノ下駒を思い起こさせる立ち姿。6歳春を迎えた古豪のステイヤーが2年半ぶりに完全復活する。

 半人半魚の妖怪「アマビエ」が肥後熊本の海岸に現れたのは今から180年近く前の江戸時代後期。全身から、まばゆい光を発散させながら水面に浮かび上がると目撃した役人に予言めいたことを告げました。「国内には豊作の後に疫病が流行するであろう。そのときには私の写し絵を全国に流布せよ」。驚く役人の目に光り輝く半人半魚の姿を焼き付かせ、海の中へ帰っていきました。それから10数年後、コレラが流行した際にアマビエの異形を描いたかわら版が江戸市中に大量に出回ったとか。

 コロナ禍に悩む今、そんな言い伝えが残る妖怪「アマビエ」が一大ブームになっています。その異形を描いた御朱印やお札まで出回っているそうです。江戸時代に写し絵のおかげでコレラが下火になった記録は残っていませんが、見えない敵を前にワラにもすがる思いで描いたのでしょう。光り輝く半人半魚の姿に希望の光を求めて…。疫病の終息を願う心はいつの時代も変わりません。

 水木しげるさんの漫画「ゲゲゲの鬼太郎」では水中の謎の光体として描かれたアマビエの輝き。馬になぞらえるなら…。黒鹿毛の馬体が春の柔らかい日差しを浴びて茶色い光沢を放つキセキです。天皇賞有力候補の中でも毛ヅヤの良さは断トツ。ブラシで磨いてもここまで輝きません。肌の内側からにじみ出す、まばゆい光。よほど体調がいいのでしょう。肋(あばら)もパラッと見えて仕上がりにも狂いはありません。

 昨年に比べて立ち姿がりりしく映ります。下げ気味だった頭をしっかり起こして立っている。トモが発達してきたため姿勢が良くなったのです。その立ち姿は仙台の木製民芸品「木ノ下駒」を想起させます。青森の八幡駒、福島の三春駒と共に郷土玩具の日本3銘駒に数えられていますが、木ノ下駒は江戸時代から馬の魔よけで知られる民芸品。厩舎や神棚に置いて、管理馬の安全を願ったそうです。

 キセキの左前つなぎから蹄にかけて肢巻きが施されています。湿布を巻いているように映ります。昨年の宝塚記念(2着)時、左前球節に着けていたのと同じ形状の肢巻き。木ノ下駒を馬房につるすように管理馬の安全を願ったケアも万全です。今回は目つきがきつくなっていますが耳の立て方はこれまでと同じ。尾も自然に流しているので心配ないでしょう。
 アマビエのような毛ヅヤの輝き。木ノ下駒のように頭を起こした立ち姿の力強さ。江戸の魔よけ伝承を令和の現代によみがえらせたキセキの馬体です。(NHK解説者)

 ▼アマビエ 江戸時代後期、海中から姿を見せて豊作や疫病を予言したと伝えられる妖怪。長い髪にくちばし、魚のウロコに覆われた胴体に特徴がある。アマビエの出現を伝える瓦版(1846年発行)が京大付属図書館に収蔵。その半人半魚の姿を描いたアマビエあめがヒット商品になるなど一大ブームに。厚労省がSNS上で新型コロナウイルスの感染拡大防止を呼びかけるキャラクターにも起用されている。

 ▼木ノ下駒 仙台市の伝統工芸品として知られる馬の木製玩具。仙台が馬産地だった奈良、平安時代、朝廷に献上する馬は当地の木ノ下薬師堂で催される駒市(馬の市場)で選び、「馬形」という馬の小さな木彫りを道中のお守りとして献上馬の胸につるしながら京へ上ったという。その木彫りが馬の魔よけになった木ノ下駒の由来。かつては木ノ下薬師堂の祭礼のたびに露店に並んだという。

 ◆鈴木 康弘(すずき・やすひろ)1944年(昭19)4月19日生まれ、東京都出身の76歳。早大卒。69年、父・鈴木勝太郎厩舎で調教助手。70~72年、英国に厩舎留学。76年に調教師免許取得、東京競馬場で開業。94~04年に日本調教師会会長を務めた。JRA通算795勝、重賞はダイナフェアリー、ユキノサンライズ、ペインテドブラックなど27勝。19年春、厩舎関係者5人目となる旭日章を受章。

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2020年4月28日のニュース