【高松宮記念】スマッシュ100点 少年から大人へ

[ 2019年3月19日 05:30 ]

10カ月余で見違えるほどたくましくなったダノンスマッシュ
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 急成長を遂げた世界のスプリンター2世だ。鈴木康弘元調教師(74)がG1有力候補の馬体を診断する「達眼」。第49回高松宮記念(24日、中京)では父ロードカナロアの背中を追うように重賞2連勝中の4歳馬ダノンスマッシュに唯一の満点を付けた。一方、藤田菜七子(21)のG1・2度目の参戦で注目される11歳馬スノードラゴンは75点止まりだが、達眼先生が期待するのはベテランの活気を引き出す菜七子スペシャル。新旧実力馬の姿を彼岸の風物詩になぞらえながら解説する。

 18日は彼岸の入り。山梨県富士川町の昌福寺では「虫切加持(むしきりかじ)」が行われています。住職がお経を唱えながら子供の手のひらに筆で虫封じの言葉を書き込み、健やかな成長を祈願する彼岸の伝統行事。日法上人というこの地の僧侶が霊元天皇(在位1663~1687年)の重病を加持で治したことに由来するそうです。サラブレッドとほぼ同じ300余年の歴史。ひょっとして、ダノンスマッシュもひそかに虫切加持を受けてきたのか。疳(かん)の虫を追い払ったかのような穏やかになった目つきが印象的です。耳を力強く立てて集中力を示しながら、まなざしは柔和で聡明(そうめい)。目は心の窓といいます。同じロードカナロア産駒のアーモンドアイも名牝らしい澄み切った目をしていますが、こちらも強い精神力を伝える目です。

 馬体も彼岸の虫切加持を受けたような健やかな成長ぶり。昨春のNHKマイルC時に出したリクエストにも完璧に応えてくれました。同レースの馬体診断では「キ甲が未発達。トモの筋肉や腹袋、毛ヅヤももう少し欲しい」と指摘し、70点の評価にとどめました。それから10カ月余、ひ弱な少年の姿はどこにも残っていません。見違えるほどたくましく変貌した青年の立ち姿。「随分背が伸びたな」。彼岸の墓参りで久しぶりに再会した孫の成長に驚かされたような気分でしょうか(私には孫はいませんが…)。

 3歳春の写真と比較すれば違いは一目瞭然です。低かった頭を起こして力強く立っています。キ甲(首と背中の間の膨らみ)が発達したことで首差しがしっかり抜け、頭を起こすようになった。薄手だった腹袋も明らかに厚みを増している。彼岸の牡丹餅(ぼたもち)を腹いっぱい食べたように実が入っています。それでいて太め感はない。あばらがうっすらパラパラと見える最高の仕上がり。トモのボリュームも増しています。暑さ寒さも彼岸までと言いますが、冬毛がきれいに抜けた肌は春彼岸の柔らかい陽光を受けて輝いています。

 “世界のスプリンター”ロードカナロア譲りの胴が詰まった筋肉質のスプリンター体形。父は京阪杯、シルクロードS連勝の勢いで臨んだ4歳時の高松宮記念で3着でした。その背中を追うように同じG3戦を連勝したダノンスマッシュ。虫切加持を受けたような心身の健やかな成長を味方にすれば、父より上の着順を狙えるか。その成果を示すのは24日、彼岸の明けです。(NHK解説者)

 ◆鈴木 康弘(すずき・やすひろ)1944年(昭19)4月19日生まれ、東京都出身の74歳。早大卒。69年、父・鈴木勝太郎厩舎で調教助手。70~72年、英国に厩舎留学。76年に調教師免許取得、東京競馬場で開業。94~04年に日本調教師会会長を務めた。JRA通算795勝、重賞はダイナフェアリー、ユキノサンライズ、ペインテドブラックなど27勝。 

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