【エ女王杯】ルージュ95点!悲願G1へ悟り開いた“貴婦人”

[ 2017年11月7日 05:30 ]

鈴木康弘氏が1位に指名したルージュバック。リラックスした精神状態がうかがえる
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 混戦模様の女王ポストを射止めるのは姿勢の正しい5歳牝馬だ。鈴木康弘元調教師がG1有力馬の馬体を診断する「達眼」。第42回エリザベス女王杯(12日、京都)ではルージュバック、ミッキークイーンを95点で1位指名した。達眼が捉えたのは両馬の立ち姿。充実した精神状態を示す姿勢がタイトルを引き寄せる。

 姿勢は心の代弁者だといいます。精神状態を無意識のうちに表すからです。肩を怒らせる、首をすくめる、胸をそらす、背中を丸める…。名人と呼ばれる女形の舞踊家は心の動きを指先だけで示すそうです。でも、人間よりももっと端的に感情を姿勢に込めるのが馬。耳先から尾の付け根にまで気持ちを表出させます。周りの目を気にして取り繕う必要がないからです。

 ルージュバックの姿勢が代弁するのは心のゆとり。過去の立ち姿よりも頭の位置が低くなっている。リラックスした精神状態を示す立ち姿です。今春までは勝ち気な気性を前面に押し出して全身に力をみなぎらせていたのに、悟りでも開いたかのように力みが抜けています。それでいながら、顔つきはきつい。引き手を持つスタッフへ鋭い目つきと竹を割ったように鋭角な耳を向けています。闘争心を顔に宿しながら、体はリラックスさせている。そこには気性の顕著な成長が読み取れるのです。

 不機嫌に尾を上げて立っている昨年の女王クイーンズリング。不愉快そうに顎を突き出しているトライアル勝ち馬クロコスミア。そんなライバルたちに見習ってもらいたい穏やかな立ち姿です。

 牝馬の被毛は季節に敏感。気温の低下で冬毛が少し目立ってきました。毛ヅヤこそさえませんが、筋肉は全く落ちていません。力みのない立ち方をしながら、ここまで繊細な筋肉を浮き立たせていれば十分です。腹下が長くて、背中にも余裕がある。いわゆる長背長腹。マイルよりも2200メートルのほうが明らかに向いている体形です。

 G1を勝てないまま5歳の晩秋を迎えましたが、機は熟しました。姿勢が心の代弁者なら、頭の低い姿勢が代弁するのは成熟した大人の心。女王の冠が似合う貴婦人の立ち姿です。(NHK解説者)

 ◆鈴木 康弘(すずき・やすひろ)1944年(昭19)4月19日、東京生まれの73歳。早大卒。69年、父・鈴木勝太郎厩舎で調教助手。70〜72年、英国に厩舎留学。76年に調教師免許を取得し、東京競馬場で開業。78年の開場とともに美浦へ。93〜03年には日本調教師会会長を務めた。JRA通算795勝、重賞はダイナフェアリー、ユキノサンライズ、ペインテドブラックなど27勝。

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2017年11月7日のニュース