「ばけばけ」錦織ロス「友一」に込めた思い「東の国から」献辞は史実 台本になかったラストも 最期の裏側
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女優の髙石あかり(23)がヒロインを務めるNHK連続テレビ小説「ばけばけ」(月~土曜前8・00、土曜は1週間振り返り)は13日、第115回が放送され、俳優の吉沢亮(32)が好演してきた“第3の主人公”錦織友一の最期が描かれた。親友レフカダ・ヘブンの作家魂を焚きつける「リテラリーアシスタント(創作活動の手助け役)」としての最後の仕事に、涙の視聴者が続出。インターネット上には“錦織ロス”が広がった。トレーナーの指導の下、吉沢は約1カ月間で約13キロの減量を敢行し、錦織の生き様を体現。泣き笑いを誘う会話劇で見る者を魅了してやまない脚本家・ふじきみつ彦氏(51)に作劇の舞台裏を聞いた。
<※以下、ネタバレ有>
朝ドラ通算113作目。松江の没落士族の娘・小泉セツと、その夫で日本の怪談を世界に紹介した明治時代の作家・小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)をモデルに、怪談を愛してやまない夫婦の何気ない日常を描く。
錦織役のモデルとなったのは、島根の教育者・西田千太郎。八雲とセツさんの媒酌人も務めた、公私にわたる親友。結核を患い、1897年(明治30年)、34歳の若さで天に召された。
錦織は第4週・第17回(昨年10月21日)で初登場。最初はヘブン(トミー・バストウ)の単なる通訳・世話係として振り回されたが、次第に信頼関係を築き、ヘブンの執筆活動に不可欠な「リテラリーアシスタント」へ。杵築への旅、出雲大社にも同行し、松野トキ(髙石あかり)との結婚を見届けた。
その振る舞いが「まるで朝ドラヒロインのよう」と人気沸騰。しかし紆余曲折の末、松江中学校の校長にはなれず。病を患ったこともあり、船着き場に行かず、熊本に向かうヘブンを見送らなかった。
そして第115回は、錦織に焚きつけられたヘブンの新著「東の国から」が完成。届いた本を開き、扉に書かれた英文が目に入ると、錦織は微笑んだ。「この世はうらめしい。けど、すばらしい。」。錦織もそう実感したのであってほしい。
史実としては「東の国から」出版は1895年(明治28年)、日本国籍取得手続き完了は1896年(明治29年)。熊本から神戸に転居(1894年・明治27年)した後の出来事だが、“旅人”八雲の生き様が色濃く表れるのは松江時代と熊本時代。今作は「熊本編」のストーリーに組み込むアレンジがなされた。
錦織の夭折は史実通り。ふじき氏は「吉沢さんとトミーさんが演じる錦織とヘブンの関係性は、僕も本当に大好き。脚本を飛び越えた分厚い友情が伝わってくるのは、お二人のおかげです。錦織とヘブンのことをもう書けないのは残念で仕方ないですが、2人の友情はいつまでも消えない。その思いも込めて、錦織はヘブンにとって“一番の友達”ということで“友一”という名前を付けました」と役名秘話も明かした。
この日のラスト、「東の国から」の扉には「TO NISHIKOHRI YUICHI IN DEAR REMEMBRANCE OF IZUMO DAYS(出雲時代のなつかしいおもいでに 錦織友一へ)」と記されていた。
ふじき氏は「八雲の『東の国から』の扉にも、実際に書かれています(※1)。2人の関係性を表すのに、これ以上の言葉はないので、『ばけばけ』でも使わせていただきました」と語った。
ドラマでも描かれたが、西田は「文検(文部省中等教員検定試験)」の結果、東京帝国大学卒業の資格は得られず。経歴は島根県尋常中学校「校長心得(代理・補佐)」止まりだった。将来を嘱望されながら、家庭の事情などもあって松江に残った西田とは対照的に、同郷の若槻礼次郎は内閣総理大臣を務め、岸清一は“近代スポーツの父”と慕われるなど中央で活躍した。
制作統括の橋爪國臣チーフ・プロデューサー(CP)は「不遇に映る彼にとって、一番の幸せは何だったのか。プロットの段階から議論を重ねて、脚本に落とし込んでいきました」。西田には妻子がおり、熊本時代の八雲と手紙のやり取りもしているが、錦織とヘブンの関係性に焦点を絞り、劇中約1年ぶりの再会とした。
「八雲の最大のベストセラーは『知られぬ日本の面影』で、日本国籍になると、そういう紀行文が書けなくなる。実際、東京帝大のチェンバレン教授(※2)にも相談しています。八雲が松江を離れた後、実は西田千太郎も熊本を訪れていますが、なぜか2人は会っていません。この辺の史実をヒントに、我々なりに解釈して、ヘブンの文学的な才能に惚れ込んだ錦織が最後まで相棒として一緒に作品を残したかった、という結末にたどり着きました」
錦織が敢えてヘブンを焚きつけたのは、ドラマオリジナル。ふじき氏は「錦織はヘブンの一番の友達です。だから思ったんじゃないですかね、こうでもしないと今のヘブンには書けないと。そして、ヘブンは焚きつけられた。これまでヘブンに振り回されていた錦織ですが、最後にヘブンを見事に…。本当に世話が焼けたでしょうね、そして、それが本当にうれしかったでしょうね」と錦織の思いを代弁した。
橋爪CPは「日本国籍取得の報告のため松江に一時帰省した八雲を見送る時、西田は松江大橋に腰掛けて船が消えるまで見つめていた、という記録が残っていますが、今回は屋根裏部屋で思いを馳せている、ということにしました」と解説した。
台本上、第115回は「東の国から」の扉の一文を読むヘブンと錦織のモノローグで終わっているが、雪の舞う中、ヘブンが一人執筆を進める約30秒のシーンで幕を閉じ、次週予告に続いた。
第23週を担当したチーフ演出の村橋直樹監督は、狙いをこう語る。
「これが錦織とヘブン、2人だけの友情物語なら、蛇足だと思います。ただ、日本に留まることを決めたヘブンは、錦織の思いも受け取って、これからも書き続けないといけない。それがある種“ジゴク”だったのか、“テンゴク”だったのか、残り2週の最終章をご覧いただきたく、その予告編的なテイストを少し出そうと考えました。それができたのも、髙石さんを含め、吉沢さんとトミーさんのお芝居のおかげ。単なる友情を超えた錦織とヘブンの絆を描き切ることができたので、最後のシーンを付け加えました」
16日からは第24週「カイダン、カク、シマス。」。八雲の代表作「怪談」誕生がついに描かれる。
偶然にも“錦織ロス”から2日後、今月15日は西田千太郎の命日。18歳から亡くなるまで過ごした旧居(松江市新雑賀町)は保全・修繕のためのクラウドファンディングを実施している。
<※1>「出雲時代のなつかしいおもいでに 西田千太郎へ」【参考文献】ラフカディオ・ハーン著、平井呈一訳「東の国から 新しい日本における幻想と研究」(岩波文庫)
<※2>バジル・ホール・チェンバレン。英国の日本研究家で、明治時代に38年間、日本に滞在した。1886年(明治19年)、東京帝国大学の外国人教師に。のちに疎遠となるが、八雲と親交があり、往復書簡集が残る。
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