クマリデパート・七瀬マナが大きな口で歌う理由――声なき日々が教えてくれた「歌う意味」

[ 2026年2月5日 20:30 ]

【画像・写真3枚目】新聞社の廊下で響いた「あ、プリンセスだ!!」 ――クマリデパート・七瀬マナの背中を押した無垢な声(撮影・鈴音リン)
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 なぜ、あんなにも大きく口を開けて歌うのだろう。クマリデパートのライブを見たことがある人なら、一度はそう思ったことがあるかもしれない。ミントグリーン担当・七瀬マナ。キュートなルックスとメンバー一番の長身がステージに映える。けれど、ひとたび曲が始まると、その表情は“モンスター”となる。顎が外れてしまいそうなほど大きく口腔を晒し、何かを貪るように、あるいは体中のエネルギーをすべて吐き出すように歌うのだ。その迫力は、単なる「カワイイ」の枠を軽々と飛び越えてくる。新作のプロモーションでスポニチ東京本社を訪れた際、その理由を尋ねると、少し照れながら、けれど真っ直ぐな瞳で、ある「痛み」と「再生」の物語が語られた。(推し面取材班)

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 昨年7月のZeppDiverCity(TOKYO)ワンマン。ステージの照明が、激しく明滅する中、アップテンポな楽曲の中、七瀬がマイクを強く握りしめた。天を仰ぐようにして、限界まで開かれた口。汗で濡れた前髪が額に張り付くのも構わず、必死に酸素を求めて呼吸をしているような、切実さを帯びた表情だ。そこには「上手に歌おう」という小手先の技術よりも、「想いを届けたい」という凄まじい熱量が宿っていた。見ているこちらの心拍数まで上がってしまうような、全身全霊のパフォーマンス。そこまでして声を張り上げる背景には、歌いたくても歌えなかった、静寂の記憶があった。

 「自分では笑顔でいるつもりというか、酸素を吸って呼吸してるつもりでいると、自然とああいう顔になっちゃうみたいで(笑)」

 あの印象的な歌唱スタイルについてインタビューで聞くと、屈託のない笑い声が返ってきた。計算してやっているわけではない。無意識にあふれ出たものが、あの表情なのだという。「一時期は『イヤだなこの表情』って気にして、口を閉じようとしたこともあったんです。でも、無意識に開いちゃう」

 コンプレックスになりかけたその癖を「武器」に変えたのは、客席からの声だった。「大きな口がいいね」「素敵な笑顔だね」。その言葉たちが、迷いを吹き飛ばした。「みんながそう言ってくれるから、自分のままでいいんだって思えるようになりました」

 今でこそ笑顔を見せるが、その裏には決して浅くない傷跡がある。2023年、医師から告げられた病名は「声帯結節」。喉の酷使によって声帯に異常が生じる、歌い手にとっては悪夢のような病だ。3カ月ほど、歌うことはおろか、声を発することさえ禁じられた。応援してくれるファンとの会話は筆談。ノートにペンを走らせるだけの意思疎通は、もどかしさの連続だった。

 「このままで声が戻らなかったらどうしよう。ずっと歌えないんじゃないかって、部屋でひとりで泣いてばかりでした」。誰とも話せない日々。天井を見上げながら、世界から取り残されたような孤独に震えた。

 「日々、自分が何も成長していないと感じて苦しかった。立ち止まっていることが、何よりつらかったです」。進みたいのに進めない。焦りが募るばかりだった。

 だが、そこで終わらなかった。「もう喉は壊さない」と心に決め、専門医への通院、ボイストレーニング、リハビリに打ち込んだ。

 「それから、『歌が良くなったね』って言っていただけることがすごく増えたんです。あの時はすごい絶望で『もう無理だ』と思ったんですけど、それを乗り越えてより歌に対する意識、そして成長、できる表現の幅が広がった。本当に嫌な期間だったけど乗り越えてよかった」。筆談に使ったノートは、今も大切に自宅に保管してある。声を出せない世界で紡いだ言葉のかけらは、七瀬を支える大切な宝物だ。

 そもそも、アイドルになるまでの道のりも平坦ではない。幼い頃から「セーラームーン」やAKB48に憧れ、数えきれないほどのオーディションを受けたが、結果は不合格続き。「もう無理なんじゃないか」と諦めかけた頃に出合ったのが、クマリデパートだった。「合格通知を受けた時は信じられないっていうのが最初の気持ちで。受かった瞬間、すぐママに『やばい、受かった』ってLINEしました」。

 ようやくつかんだ夢の切符。その最初の記憶は、狭く限られた視界の中にあった。場所は2020年2月、赤坂BLITZ。4人体制ラストワンマンのステージ上。楽曲「サクラになっちゃうよ!」のバックダンサーとして、猫の仮面を被り、正体を隠したまま踊った。仮面の隙間から覗く光景は、あまりに圧倒的だった。「すっごい人がいる、大丈夫かな」。視界の悪さと、眼前に広がる無数の観客。新メンバーとしてお披露目される直前の心臓は、早鐘を打っていた。「本当に受け入れてもらえるだろうか」。不安と期待が入り混じる中での初舞台だった。

 お披露目直後に世界をコロナ禍が覆い、自身も骨折に見舞われるなど、試練は続いた。顔は見せたものの、ファンと直接会えない空白の5カ月間。それでも、心を照らし続けたのは、やはりファンの存在だった。ようやく立てた7月のステージ。客席に灯る光を見つけた瞬間、胸が震えた。「ライブができない期間でも、ミントグリーンのペンライトやTシャツを見て、『自分を好きでいてくれる人がいるんだ』って思えたんです」

 「今のままじゃダメだ」と自分を責めてしまう心を、「マナちゃんはそのままでいいんだよ」という言葉が優しく包み込む。大きく開く口の奥には、そんなあふれんばかりの感謝が詰まっている。口を開くという行動は、ただの呼吸ではない。ありったけの感情と愛を、世界に向けて叫ぶための器だ。

 「ステージに立てること、歌えること、踊れること。その全部が、本当にありがたいんです」

 かつて守りに入っていた心はもうない。「失敗しても経験になる」と、TikTokでの新しい企画にも挑戦を始めた。失われた声を取り戻した喉は、今、以前よりもずっと強く、自由に震えている。

 インタビューの最後、「もっとみんなと、いろんな景色を見に行けたらいいな」と、大きな口を広げてニンマリ。これからもステージで、誰よりも大きく口を開け、歌い続ける。

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