浅香あき恵(2)若いころ難波で遭った痴漢に自分でも驚きの反応「だめだ…私は毒されてる」
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決して「ブサイク」ではないのに「ブサイク」を受け入れ、それを笑いに昇華した女優魂。ルッキズム批判が叫ばれる現代社会では、この芸はもはや一子相伝になる?
【浅香あき恵インタビュー(2)】
◆◆ 故郷・大分で思い出した少女時代の夢 ◆◆
―女優を目指されたのはいつごろなんでしょうか?
「中学2年のときに文化祭でおばあちゃんの役をやったんですよ。笑いのテイストが強くて、あの人がおばあちゃん演じた人!みたいに学校でちょっと注目を集めたんです。それがとてもいい気持ちで、そこから演技をやってみたいという気持ちになったんです」
―そんな頃から漠然と女優を夢見ていらっしゃったんですね。
「この前、大分ツアーに行ったんです。同級生も来てくれてたんですけど、私が表に出たときにたまたま通りかかってくれた子が、あっきー!と呼んでくれて。本当に50年ぶりくらいの再会だったんですけど、その子が、中学の時からずっと女優になる!と言ってたもんな、と覚えてくれてて。そういえば私はあの頃から女優になると決めてたなと久しぶりに思い出しました。それがなぜか今はお笑いの方になってますけど(笑い)」
―吉本はどういうきっかけで入られることになったのですか?
「元々文学座を目指してたんです。でも落ちて、翌年も受けるつもりだったんですけど、そのつなぎとして、近所のおじさんに吉本を紹介してもらったんです」
―近所のおじさん?
「おれの同級生が大阪でテレビのディレクターやってるから、吉本新喜劇紹介してやる、と言われて。その頃は両親も大阪に住んでいたので、帰ってきなさい!となって、とりあえず入った感じですね」
―なんか、いろいろツッコミどころが満載ですが(笑い)。
「(笑い)でも、すぐにやめるつもりだったんです。ところが、同期の有望株の女の子が大阪弁になじめず、先にやめちゃったんです。そしたら山城新伍さんのコメディー番組に花紀京さんとレギュラーで出ることが決まって。ここで食べていけるかも?と思っちゃったんですよねえ。まあ、何がきっかけかわからないというか、本来思っていたのとは違うけど、いつの間にかこうなって、という流れですね」
◆◆ 「私、きれいやったんですけど!」 ◆◆
―ところで浅香さんはまずブサイクっていうのが出てくるじゃないですか。
「でも、きれいやったんですよ!今は本当にみんなきれいなんですけど、当時としてはけっこうイケてたんです!テレビのレギュラーが終わったタイミングで戻ってきて、キャラも確立してなかったから、周囲もどうイジっていいか迷うところもあったんでしょうね。みんなが徐々にそういうイジり方をし始めて、気づくとあんな感じになったんです。ほんと、私は最後のルッキズムじゃないかなと思うんですけど」
―確かに(笑い)。最初は誰が言い出したんですか?
「(辻本)茂ちゃんやったかなあ?内場(勝則)くん、石田(靖)くん、あのへんですよね。脂っぽいとかそんなところから最初は始まってるんです。汗かきやったので。あるとき、うっちゃん(内場)が“ブサイクってゆうたらむっちゃウケるんですよね。なんなんですか?”って。“本当のブサイクにブサイクと言ったら客は引くけど、ちょうど頃合いがいいんでしょうねえ”って言ってました(笑い)」
―でも、葛藤とかはなかったんですか?
「ありましたよ!なんでこんなこと言われなあかんねん!って。せやけど、お客さんの笑いが救ってくれるというか、それが積み重なってくると、なんか言われへんとさみしいみたいな気持ちになりました。だから、いつの間にか言ってもらわんと、みたいな感じになりましたね」
―では、お客さんが作ってくれたパフォーマンスですね。
「そうです。でも、絶対にブサイクとは認めないの」
―確かに。ブスを受け入れることは絶対にない(笑い)
「言い返すからまた言われるというね」
◆◆ 芝居のおもしろさ教えてくれたのは木村進兄さん ◆◆
―昔は吉本新喜劇も完全に男社会で、ご苦労も多かったと思います。芸人社会なのでセクハラまがいなこともあったでしょうし。
「そうですねえ。でも、私はどちらかというとうまくかわしている方だったんです。そんなとき、南海電車の難波駅の長いエスカレーターで、お尻をギュッとつかまれたんですよ。ギュッてつかむとか身内しかないと思って、もうやめてください、と少しおどけて言ったら全然知らんおっさんで。そのときはさすがに、私はおかしい、私は毒されている、と思いました」
―(笑い)でも、そんな時代を変えてこられたのは浅香さんをはじめ現在のベテラン女優さんたちが基礎を築かれたからなんでしょうね。
「いや、私たちじゃないです。やっぱり内場くんとか、座長がニューリーダーと呼ばれた時代からだと思います。そういう悪い風習みたいなものはやめよう。全員で野球しようぜ、となってきたんです。それまではピラミッドの底辺はいらんことするな、おれらが笑いをとるからという感じでした。それをやめて、全員がヒット打てるようになろう、みたいに変えようとしたんです。それは女性男性にかかわらず、でしたね」
―そうなんですね。
「でも、芝居のおもしろさを教えていただいたのは、木村進(博多淡海)さんでした。あき、泣くから泣くんじゃないねん、笑いながら泣くという間もあるんやぞって。いろんな芝居の深いところを教えていただきました。あるとき、成人式で晴れ着を買えない事情のある女の子を演じたときに、最初は泣きながら演じていたんです。でも兄さんの言葉を思い出して少し笑いながらセリフを言ったら、なんてけなげな子なんやろという気持ちになって勝手に涙がボロボロボロボロ出てきたんです。ああこういうことか、と感じましたね。先日、いしだあゆみさんが亡くなられて、昔の映像を見ていたら倉本聰さんの作品で笑いながら涙がブワーっと目の中で広がっていくシーンを見たんです。そのとき、この人、本当に深い女優さんだったんだなと改めて思いました。人間の気持ちってほんまに複雑やから、まったく相反する顔をしてても、本当の気持ちを表情で伝えることができるということを知ることができたのは木村進兄さんのおかげです」
―そういう意味では今回の2人芝居、いろんな表現ができるかっこうの場になりそうですね。
「そうなんです。気心の知れた藍ちゃんだし、いろんな表現できると思うんです。2人きりなので、相手のセリフの最中でも自分が本当に言いたくなったら自分の間で伝えることができる。それも木村兄さんに言われたことでした。おまえが言いたくなったときがおまえの間や、と言われました。今もそれは心に残っていて、私の心情表現の大きな糧にしています」
―そんなたくさんの経験をされて今のキャラクターを作り上げられた浅香さんにとって、今の若い劇団員にはどんな印象をお持ちですか?
「今の子は本当に緊張しないし、優秀だと思います。私らが入ったころには、この子は初舞台なんやな、というのが見えました。明らかに緊張してるな、ガチガチやな、というのがありました。でも今の子は本当にすごい。台詞を噛むこともない。なんで噛めへんねん、噛むやろ普通、と思うくらい(笑い)。だから、そういう意味ではね、私はあの時代に生まれて本当に良かったと思う。だって絶対、いまオーディション受けても通る自信ないもん」=終わり
【取材を終えて】ネガティブなことはまったく言わない。大ベテランなのに、どんなにキャリアの浅い後輩にもリスペクトの気持ちを忘れない。そして底抜けに明るく、常に笑顔。
50年近い芸能人生。しかも、女性にとっては決して恵まれた環境とは言えなかった新喜劇という世界。言葉にはしないけれども、大変な苦労の数々だったことは想像に難くない。それでもきっと、どこか楽しく感じたり、夢中になれるものを探して、それを突破口にして女優生活を続けてきたのだろう。
舞台でもみくちゃにされても、最後はとびきりの笑顔で締めてきた。笑う門には福来る。この言葉がぴったりの名女優さんだ。(江良 真)
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