八代亜紀さん急死　昨年12月30日、急速進行性間質性肺炎で　ハスキーな歌声で愛された演歌の女王

79年、第21回レコード大賞において、舟唄で金賞を獲得した八代亜紀
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　「舟唄」「雨の慕情」など多くのヒット曲で知られる歌手の八代亜紀（やしろ・あき、本名非公表）さんが昨年12月30日、急速進行性間質性肺炎のため死去した。73歳。熊本県八代市出身。所属事務所の「ミリオン企画」が9日、発表した。葬儀は事務所のスタッフのみで8日に執り行った。後日お別れの会を開く予定。昨年9月に膠原（こうげん）病と診断され、療養のため同年の活動を全て休止していた。

　ハスキーな歌声で愛された演歌の女王が旅立った。八代さんは昨年8月に皮膚炎などの症状があり、複数の病院を受診し膠原病と診断された。9月9日に埼玉県内で行われた日野皓正（81）の公演にゲスト出演した後に入院し、仕事は全てキャンセルして療養してきた。

　入院中には食欲も戻っていた。事務所の大野誠代表は「症状は快方に向かい、復帰へリハビリをしていた」と話した。12月下旬に容体が急変。亡くなる前日まで会話もしていたという。昨年9月の休養発表の際にはファンに「少しの間、大好きな歌と絵から離れなきゃいけないのは寂しいけれど、必ず元気になって戻ってきますので待っててね」とメッセージを送っていた。

　故人の遺志で葬儀は事務所のスタッフのみで行われた。棺の中にはステージ衣装や、画家として活躍していた八代さんらしく愛用の絵筆も納められたという。大野代表は「裏表のない人柄で、病床ではスタッフや医療従事者に“ありがとう”と感謝の言葉をいつも伝えていました」と振り返った。後日お別れの会を行い「絵の展示会も考えていきたい」とした。

　浪曲師だった父親に子守歌で浪曲を聴かされて育ち、歌手の道を志した。15歳で上京。東京・銀座のクラブ歌手を経て、71年に「愛は死んでも」でデビューした。日本テレビ系のオーディション番組「全日本歌謡選手権」でグランドチャンピオンになったことで全国区となった。

　73年に「なみだ恋」がヒット。同年のNHK紅白歌合戦に初出場し、01年まで23回出場した。「おんなの夢」「愛の執念」など女歌の数々が全国のトラック運転手の間で愛され「トラックの女神」とも呼ばれた。77年には人気映画「トラック野郎」シリーズの「度胸一番星」にダンプカーの運転手役で出演した。

　阿久悠さん作詞、浜圭介さん作曲で79年に「舟唄」、80年に「雨の慕情」と「港町絶唱」の「哀憐（あいれん）三部作」が大ヒット。「雨の慕情」は80年の日本レコード大賞を受賞し、五木ひろし（75）の「ふたりの夜明け」との賞獲りレースは「五八戦争」と呼ばれた。

　ジャズでも存在感を発揮。12年にはジャズアルバム「夜のアルバム」で42年目にして世界デビュー。昨年8月にもジャズの名門、ブルーノート東京で公演していた。画家としては、フランスのル・サロン展で98年から5年連続で入選。厚化粧のイメージが付いたこともあったが、実際は化粧が薄く、すっぴんで出演したテレビCMも話題になった。

　かねて「80歳までステージで歌い、絵も描きたい」と生涯現役を宣言。志半ばでこの世を去った。

　八代　亜紀（やしろ・あき）1950年（昭25）8月29日生まれ、熊本県八代市出身。71年にデビュー。「なみだ恋」が60万枚以上を売り上げブレーク。NHK紅白歌合戦では79、80年と2年連続で大トリを務めた。オリコンのアルバムチャートに5作品がトップ10入りしており、女性演歌歌手としては歴代最多。2010年には「人の哀感を巧みに描き出す魅力的な歌声と歌唱技術」が評価され文化庁長官表彰を受けた。

　≪絵筆でも才能発揮　仏で5年連続入選≫八代さんは画家としての才能も発揮した。父親が若いころに画家志望だった影響もあり、自ら目指した時期もあった。長年、水彩画に親しんでいたが、40歳のころに油絵に開眼。1998年から5年連続で、フランスの由緒ある公募展「ル・サロン」に入選。その縁で22年にはパリでコンサートを開催した。歌唱について、喉を酷使する「肉体労働」と称していたが「絵を描いているときだけは喉を休ませることができる」。多忙な日々の中でも晩年まで筆を取り続けた。

　≪元夫「あまりに急で無念」≫3年前に離婚した元夫で元所属事務所社長の増田登氏は、突然の訃報に「あまりに急で無念としか言いようがありません」と悲しみに暮れた。昨年、膠原（こうげん）病を患ったと聞いていたといい「免疫の病気ということで面会謝絶となり、お見舞いに行くこともできませんでした。まれに見る歌の天才で素質を持った歌手と45年もの間、一緒に仕事をしてくることができて大変光栄です。早すぎます」と偉大な足跡を残した故人をしのんだ。