乙武洋匡氏 幅広い障がいに対応した競技、高度な技術と駆け引きに注目

[ 2021年9月2日 05:30 ]

ボッチャに挑戦する乙武氏
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 【乙武洋匡 東京パラ 七転八起(9)】ほっぺたと短い腕の間にボールを挟み込む。注意深く狙いを定める。上半身をひねって、勢いよくボールを放つ。体育館のよく磨かれた床にボールが弾み、そのまま的に向かって転がっていく。ボールが目標球の直前でピタッと止まり、周囲から歓声が上がる。四肢がないながら、短い距離ならボールを投げることができる私にも、ボッチャなら十分に楽しむことができた。

 ボッチャは脳性まひや同程度の重度障がい者でも取り組めるスポーツとして考案されているため、なかには自力による投球ができず、介助者のサポートを受け、ランプと呼ばれる滑り台のような補助具を使って投球を行うクラスもある。パラスポーツのなかでも、最も幅広い障がいに対応した競技と言えそうだ。

 ジャックボールと呼ばれる目標球に、赤・青それぞれ6球ずつの投球をどれだけ近づけられるかを競うこのスポーツ。じつはかなりの頭脳戦でもある。使用するボールの大きさと重さは規定で決まっているが、ボールの材質にはいくつかの選択肢が認められている。真っすぐ転がりやすい「天然皮革製」、相手のボールをはじきやすい「フェルト製」、ボールの上にボールを乗せやすい「人工皮革製」などがあり、選手たちは戦況によってボールを使い分けているのだ。

 トップ選手たちの試合を見ていると、寸分の狂いなくピタリと狙ったところに投球できるその技術にも驚かされるが、一方が目標球の手前に自分のボールをずらりと並べて相手の投球をブロックしたかと思えば、もう一方がそのブロックを蹴散らすような力強い投球やブロックを飛び越すような投球で対抗するなど、その駆け引きを見ているだけでも面白い。

 障がいの軽いBC2クラスでは、日本代表でキャプテンを務める杉村英孝選手が見事に金メダルに輝いた。個人としては日本で初めてとなるメダル獲得の快挙だ。きょう2日以降はペアや団体による戦いが始まる。ぜひとも彼らの高度な技術と駆け引きに注目してほしい。

 ◇乙武 洋匡(おとたけ・ひろただ)1976年(昭51)4月6日生まれ、東京都出身の45歳。「先天性四肢切断」の障がいで幼少時から電動車椅子で生活。早大在学中の98年に「五体不満足」を発表。卒業後はスポーツライターとして活躍した。

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2021年9月2日のニュース