朝ドラ「エール」 柴咲コウのオペラに女優の神髄を見た

[ 2020年4月7日 12:17 ]

NHK連続テレビ小説「エール」の世界的オペラ歌手の役で歌う柴咲コウ(C)NHK
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 【牧 元一の孤人焦点】誰が歌っているのだろう!?と思ってしまった。柴咲コウが吹き替えなしで歌うと知ってドラマを見始めたのに、いざ、その歌唱を耳にすると、「歌い手」と「歌声」が一致しない、奇妙な感覚にとらわれた。それほどまでに柴咲は、まるで別人のような歌い方を習得していた。

 7日放送のNHK連続テレビ小説「エール」のラストシーン。主人公の作曲家(窪田正孝)の妻(二階堂ふみ)が子供の頃(清水香帆)、訪れた教会で偶然、世界的なオペラ歌手(柴咲)がオペラの楽曲「私のお父さん」を歌うのを目撃する場面だ。「それは、生涯忘れることのない瞬間でした」とのナレーションが流れるが、視聴者にとっても、柴咲のオペラは忘れがたい歌唱となった。

 オペラを歌うのは容易ではない。ポップスとは発声法が違うからだ。いくら柴咲が長年、歌手として第一線で活躍していても、「世界的なオペラ歌手」として歌うには、高く厚い壁があった。柴咲自身もNHKの出演依頼に「一朝一夕ではできない」と思った。吹き替えは考えられなかったので、演じるためには発声法を基礎から学ばなければいけない。そのハードルの高さを考えれば、ほとんどの人が尻込みするだろう。

 しかし、柴咲は出演を決断し、NHK側に「早く練習させてください」と伝えた。自身の撮影開始は昨年11月中旬だったが、7月初めに歌唱指導の先生のもとでレッスンを開始。1回約2時間、週1、2回のペースで練習を重ねた。

 柴咲コウという女優は興味深い。初めてインタビューしたのは、2017年のNHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」に主演した時だった。柴咲は真摯(しんし)な面持ちで「この作品のこと、役のことを考えると、魂が震えます」と語っていた。魂が震える──その表現の仕方がこちらの胸に刺さったのを今でも覚えている。そのような繊細な言葉を選ぶセンスに好感を抱き、そして、この人は魂が震えるほど役にのめり込める女優なのだと感じた。このインタビューでは「私は課題が多ければ多いほど燃えるタイプ」とも話していた。今回のオペラ歌唱も、間違いなく大きな課題だった。それをNHKから提示されて激しく燃え上がり、深く役にのめり込んだに違いない。あの歌唱シーンには、そんな柴咲の女優としての神髄が詰まっている。

 実は、柴咲はあの歌唱に満足していない。「練習でカメラが回っていないと声が出るのに、本番になると、お芝居のスイッチが入って邪魔をしてしまうのか、声が出にくくなる」と明かす。つまり、まだ伸びしろがあり、さらに魅力的な歌声を披露する可能性があるということだ。

 NHKによれば、次の歌唱シーンの放送は6月1日以降。その時は私の魂が震えるかもしれない。

 ◆牧 元一(まき・もとかず)1963年、東京生まれ。編集局デジタル編集部専門委員。芸能取材歴約30年。現在はNHKなど放送局を担当。

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