なお精力的 56歳・三谷幸喜氏の今「大御所感を拭いたい」「いい歳して“まだこんな笑いを”と」

[ 2018年4月13日 10:00 ]

三谷幸喜氏インタビュー(下)

脚本家・演出家の三谷幸喜氏。「発想の源は俳優との出会い」と明かす
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 脚本家・演出家の三谷幸喜氏(56)がエネルギッシュに笑いを生み続けている。2016年のNHK大河ドラマ「真田丸」を終えた後も、休みなく作品を発表。14日にはミステリーの女王アガサ・クリスティーの名作を脚色するドラマ第2弾、フジテレビ「黒井戸殺し」(後7・57〜11・10)が放送される。“創作の泉”はどこから湧き出るのか。日本の演劇界・ドラマ界・映画界のトップを走り続ける三谷氏の「今」に迫った。

 日頃時代劇を見ないデジタル世代も取り込み、ブームを巻き起こした「真田丸」は16年10月27日にクランクアップし、12月18日に最終回。三谷氏は、上演期間が「真田丸」終盤と重なった舞台「エノケソ一代記」(11月27日〜12月26日)を作・演出。本人も24年ぶりに本格的に舞台出演し、熱演を披露した。翌17年も休む間もなく「不信〜彼女が嘘をつく理由」(3月7日〜4月30日)「子供の事情」(7月8日〜8月6日)と舞台を作・演出。今年元日には、みなもと太郎氏のギャグ漫画を原作に脚本を手掛けたNHK正月時代劇「風雲児たち〜蘭学革命篇〜」が放送された。

 今年に入っても、川平慈英(55)&シルビア・グラブ(43)と豪華日替わりゲストが出演した「ショーガール vol.2〜告白しちゃいなよ、you〜」(1月8〜14日)、歌舞伎俳優の中村獅童(45)TOKIOの松岡昌宏(41)らが出演した「江戸は燃えているか」(3月3〜26日)と舞台を作・演出。続けて、実は「真田丸」の後、ドラマ作品としては最初の仕事となった「黒井戸殺し」が14日に満を持して放送。そして、歌舞伎俳優の片岡愛之助(46)女優の優香(37)お笑い芸人の藤井隆(46)らが出演する舞台「酒と涙とジキルとハイド」(4月27日〜5月26日、東京芸術劇場プレイハウス)の作・演出が控える。4年ぶりの再演となり、3月30日〜4月1日には台湾公演。今回のインタビューは3月中旬、「酒と涙とジキルとハイド」の稽古中に行った。

 もともとコンスタントに作品を発表していたが、大作「真田丸」を終えた後も精力的。途切れることなく三谷作品が楽しめる観客や視聴者にはありがたいが「少し休みたくなったりはしませんか?」と水を向けると、三谷氏は「家族のためには、稼がなきゃいけないですからね」と笑いを誘いながら「じゃあ仕事をしていない時に何をしているかというと、何もすることがないので。何もしないんだったら、仕事をしていた方がいいんじゃないかという感じですね」と創作への向き合い方を明かした。

 となると、これほど多く作品のアイデアの源はどのように生まれ、どのようにストックを蓄えるのか?

 「僕の中で何か人に訴えたいテーマとか、何か世の中を変えたい思いといったものは全くないし、そういう思いから物語を作ったことはありません。それはもう、ひとえに俳優さんとの出会い。今回の『黒井戸殺し』で言うと、野村萬斎さんですよね。萬斎さんと『オリエント急行殺人事件』(15年1月放送)をやらせていただいて、この人のドラマがもっと見たいという思いから『黒井戸殺し』も出発しましたから」

 インタビュー時に上演中だった舞台「江戸は燃えているか」は、女優・松岡茉優(23)の存在感が光った。松岡は「黒井戸殺し」にも出演。三谷氏は「松岡さんと実際に演出家としてやらせていただいたのは、この舞台が初めて。実はそれまでお会いしたこともなく『真田丸』(松岡は主人公・真田信繁の正室・春を演じた)の時もほとんど存じ上げていませんでした。今回、初めて一緒にやらせていただいて、彼女はおもしろいし、透明感もあるし、度胸もある。まだまだ、いろいろな引き出しを持っている方だと感じたので、そういう女優さんに出会うと『今度はこんなことをやってみたい』という思いが募ってくるんですよね。それが次の作品につながる。俳優さんとの出会いが一番大きいですね」と作品が生み出される“原点”を明かした。

 舞台「江戸は燃えているか」のパンフレットに書かれた三谷氏の言葉が印象的だった。「江戸無血開城」をめぐる群像コメディー。勝海舟(中村獅童)と西郷隆盛(藤本隆宏)、どちらかが偽物だったら…というアイデアの下、ドタバタ喜劇が展開される。三谷氏は「いい歳して『まだこんなことをやっているのか』と言われたい」という趣旨の文章をつづり、笑いだけを求める芝居への思いを明かしている。

 劇団「東京サンシャインボーイズ」から始まり、数々の演劇作品を発表。フジテレビ「振り返れば奴がいる」「王様のレストラン」「古畑任三郎」シリーズや大河ドラマ「新選組!」「真田丸」、映画「ラヂオの時間」「THE 有頂天ホテル」など映像の世界でも“三谷ワールド”を築いた。稀代の喜劇作家は一体、どこに向かうのか。最後に、今後の展望を尋ねた。

 「50代半ばになって、もう年齢的には普通だと中堅も超えて、キャリアだけで言うとベテランの域に来てしまっているんですけども、それが本当に嫌で。先生とか言われるのも嫌ですし、なるべく大御所感を払拭したいんですよ(笑)。だから『江戸を燃えているか』のような作品は好きだし、何か軽いスタンスで行きたいなとは思うんですけど。でも一方で、この後、舞台やドラマや映画を何本作れるのか分からない。まとめに入りたくはないんですけども、ものすごく中途半端なところで死んじゃうのも嫌なので、どこか気持ちの中で、自分が本当にやりたかったものを一番いい形で1個1個きちんと残していくという作業を、きちんと自覚してやっていかないといけないなとは思っています」

 「今まで割と仕事を断れないタイプで、みんなに好かれたいので(笑)、すぐ『やりますよ』と言って苦労したことも多々ありました。でも、そういうのはもうやめようと思います(笑)。本当にやりたいものだけをやるようにしないといけないとは思っていますけど、そうなると今度は自分発信のものばっかりになっちゃうので。自分が本当にやりたいものと、人が僕にやらせたいものに当然、違いはあって、自分が意外と気付かない部分にオファーがあると『僕にこんなことを求める人がいるんだ』と、うれしくなったり、新鮮だったりするんですよね。そこから新しいものが見えてくることもあるので。結局は、これまでと同じことの繰り返しかもしれないですね(笑)」

 =終わり=

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