「エレカシ」泥臭く、前向きに30周年 宮本浩次が語る「裸一貫」処世訓

[ 2017年3月12日 10:12 ]

前向きな男、エレファントカシマシの宮本浩次が、前向きなポーズを決める
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 引退相次ぐ芸能界。一方で泥臭く、デビュー30周年を迎える男がいる。ロックバンド「エレファントカシマシ」の大黒柱、宮本浩次(50)。昭和の終わり、バブルの残り香漂うデビュー当時の1988年から一変、一寸先も見通せない世の中になった。苦しみの日々に差す光の尊さを歌い続けてきた、自称「無学のインチキ」が、いまの時代をくじけず生きる人々に「宮本流処世訓」を語る。

 ♪くだらねえとつぶやいて 醒めたつらして歩く――。97年のヒット曲「今宵の月のように」のような人が、いま日本に増えた感がある。ブラック企業、低賃金。閉塞(へいそく)感漂う現代に「知恵のある奴(やつ)に金が回る。変だよなぁ」と顔を曇らせる。

 しかし、人生の喜びは金を得ることだけなのか?「近所にね、70歳過ぎて新聞に載ってるレシピで勉強して、料理屋してる人がいる。俺が行かなきゃつぶれちゃうような店。けど好きなことをやっているんですよ」

 そう話すと、子供のような笑顔を見せた。

 「生きるというのは、ずっと楽しいことがあるというふうに思う。そうでなければ、こんな意味分かんないこと、やめちゃう人もいる。そういう人は“あしたの方が良くなる”とは思ってないんです」。そんな人に「明日を前向きに生きようぜ」と励ますような曲を、ずっと作り続けてきた。

 むろん人生はそう甘くない。ただ宮本の「前向き」には説得力がある。デビュー後6年間、質の高い曲を書くも鳴かず飛ばず。27歳だった94年、レコード契約を切られ、事務所も消滅し“無職”となった。「2年ほどでしたけど、自分がどこにも属してない、重い時間でした」

 挫折、絶望。それでも音楽への情熱が先に立った。2年間、バイトもせず曲をひたすら作った。できたのが「悲しみの果て」「四月の風」の代表曲2曲だ。95年6月21日に東京・下北沢のライブハウス「シェルター」で初披露。「50人くらいの観客が、凄く喜んでくれてね」。ここで学んだのが「必死になると人に届く」ということ。「売るという立場にいながらほとんど売れることのなかった中、下北で受けた歓声が、僕のプロフェッショナルとしての萌芽(ほうが)でした」。30歳手前の96年4月に再デビューし、進撃が始まる。

 「人間は、窮するとなんとかするんですよ」と力説する。「泣きながら“何で俺はこんな目に遭ってんだ”と叫びつつも素っ裸になると、素っ裸な自分の気持ちが分かってくる」。多くを失い、自分を顧みた時、本当にやりたいことや、やるべきことが見えてくる。

 「身の保証や既得権益があってお金もらってると、ペラーッと仕事するでしょ。この間もパスポート取りに行ったとき、東京都の人、あったま来るよね(笑い)。横柄な人いるじゃないですか。まあそれは置いといて、裸一貫になってもすぐ死なないし、考えるきっかけになる。それが素敵なところですよ」

 ただ、生き馬の目を抜く芸能界。それだけでは長年生き残れない。はやり廃りの中、同期のバンドはほぼ解散。とりわけ今年、「今宵の月のように」が主題歌だったフジテレビドラマ「月の輝く夜だから」で主演した江角マキコさん(50)ら多数のタレントがさまざまな理由で引退した。「情熱と、幸いにも人々の琴線に触れる部分があったから、こんな無学のインチキでもうまくやってこられた」と謙遜する。

 だが次の瞬間、真面目な顔になった。「世の中全体での音楽のポジションはデビュー当時と変わってると思うけど、“真摯(しんし)な表現”というのは色あせるはずもない。孔子の論語は二千何百年たった今も啓蒙(けいもう)の言葉の原典だし、僕が好きな作家の永井荷風だって、凄く面白い。まして、普遍的なテーマを真摯な表現で形にしたとき、それは色あせようがない」

 時代や景気の良しあしにかかわらず、人生の数だけ苦しみや悩みはある。No・1ヒットこそないが、そんな普遍的な悲哀を前向きに歌い続けている。「今宵の月のように」の歌詞は♪いつの日か輝くだろう あふれる熱い涙――と続く。「僕らの歌がどんなに力を持ってるか分からないが、50代における精いっぱいのものを形にして人を励ませたら」。30周年を迎えすっかり閉塞した今の時代にこそ、よりエレカシの不器用なぬくもりは求められているのかもしれない。

 ≪21日ベスト発売 30周年30曲3000円≫今月21日には、全キャリアを通じたオールタイムベスト盤「THE FIGHTING MAN」をリリースする。30周年にちなみ30曲、3000円。ヒット曲はもちろん、今でもライブでは定番のデビュー曲「デーデ」(88年)や、売れない時代の問題作「奴隷天国」(93年)なども収録される。

 ◆宮本 浩次(みやもと・ひろじ)1966年(昭41)6月12日、東京都生まれの50歳。小学3年からNHK東京放送児童合唱団に所属。76年にNHK「みんなのうた」の「はじめての僕デス」でソロ歌手デビュー。81年に地元の友人とエレカシを結成。メインボーカルとギター、ブルースハープを担当。ほぼ全ての作詞作曲を手がける。黒の長髪、白いワイシャツがトレードマーク。

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