ピアノ弾き語り途中で止まっても…AKBイズムを体現した横山由依

[ 2016年9月22日 09:10 ]

「365日の紙飛行機」のピアノ弾き語りに挑んだ横山由依

 AKB48の原点の魅力に久しぶりに触れた夜だった。

 「AKB48グループ同時開催コンサートin横浜~今年はランクインできました祝賀会~」が9月15日、横浜アリーナで行われた。

 6月の選抜総選挙で80位内にランクインしたメンバーのうち、舞台出演中の入山杏奈(20)を除く79人が出演した。前日の14日に「足のけがのため休演」と発表していた小嶋陽菜(28)も結局出演したことが話題になったが、最大の見どころは選抜メンバー15人が1人ずつ思い思いの演出で楽曲を披露したことだった。

 ドラムをたたきながら「セブンスコード」を歌った高橋朱里(18)、胸に秘めた熱い思いを語った上で「考える人」を熱唱した岡田奈々(18)、歌下手をあえてアピールするかのように「大声ダイヤモンド」のセンターを務めた北原里英(25)、弦楽器とピアノの伴奏をバックにNGTの「Maxとき315号」を歌い上げた柏木由紀(25)…。「推しメン」以外のファンが見ても思わず引き込まれてしまう演目が続いた。

 その中で最も強い印象を残したのが「365日の紙飛行機」のピアノ弾き語りに挑んだ横山由依(23)だった。

 ステージの上で1人、ピアノに向き合う横山。小さな音も聞き逃すまいと静まり返る会場。横山は意を決して弾き始めたが、響く音がたどたどしい。観客はどうなることかと固唾(かたず)をのんでいたが、とうとう途中でピアノが止まってしまった。しかし、横山はあきらめなかった。気を取り直して再び弾き始め、歌い続けると、客席からも歌声が聞こえ始めた。それは必死に頑張る横山を励ますかのような合唱だった。

 本来なら、ステージ上では完璧な演奏が披露されるべきだ。たどたどしかったり途中で止まってしまったりする事態はプロの世界ではあってはならない。ところが、AKBでは、それもありなのだ。いや、極論すれば、そんなアマチュアっぽさこそがAKBの原点なのだと思う。総合プロデューサーの秋元康氏も以前「AKBと高校野球は似ている」と言っていた。完璧を求めるならばプロ野球やメジャーリーグを見ればいい。高度な技術よりも、夢や目標に向かって必死に汗を流し涙する姿に触れたいから高校野球を見るのだ。

 横山は自分のピアノがうまくないことを自覚していたはずだ。ピアノの伴奏で「365日の紙飛行機」をソロ歌唱したいなら、ピアノはプロもしくは自分より上手なメンバーにお願いすることもできた。しかし、そうはせずに、仕事の合間にスタジオにこもって必死に練習し、完璧にはほど遠い状態だと分かっていながら観客に聞かせる道をあえて選んだ。グループ総監督自らAKBイズムを体現したと言えるのではないか。

 その選択が間違っていなかったことは、あの合唱で証明された。彼女が精いっぱい歌う「365日の紙飛行機」はこの上なく魅力的だった。(記者コラム)

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2016年9月22日のニュース