蜷川幸雄氏 表現への「欲深い」執着心 車椅子生活でなお鬼気迫る稽古

[ 2016年1月1日 10:00 ]

情熱的に仕事に打ち込む蜷川幸雄氏

 「世界のニナガワ」と呼ばれ国際的な評価も高い演出家・蜷川幸雄氏(80)は今、何をし、何を考えているのか。1年半に渡り密着したTBSのドキュメンタリー「疾走する蜷川幸雄80歳~生きる覚悟~」が2日午前6時から放送される。演出を担当した映画監督、演出家の源孝志氏に話を聞いた。

 14年5月に撮影を開始したが、蜷川氏は約半年後の香港公演中にダウン、緊急帰国し入院した。約1カ月後の「ハムレット」稽古初日に復帰したものの、鼻に酸素吸入チューブを挿し、車いすに乗った状態。それでも周囲が「そんなでかい声出したら死んじゃうんじゃないの?」と心配するくらいエネルギッシュな演技指導を続けた。

 「精神だけがなお研ぎ澄まされている。蜷川さんの人生の中で一番劇的に変わった1年半じゃないですかね。(倒れてから)逆により激しいというか。遺言めいたことは1つも言ってない。でも稽古をつけられている役者は感じざるを得ない。鬼気迫る感じで」。

 今回の撮影では「ハムレット」「海辺のカフカ」の現場に密着。「ハムレット」の主役・藤原竜也(33)は元々蜷川氏演出の舞台「身毒丸」のオーディションで合格したことから芸能界入り。“秘蔵っ子”であるだけに稽古は苛烈を極め、「竜也は精神的にも肉体的にもボロボロ」になったほど。ただ、それには理由がある。「竜也を教育したのは俺だから。今のままじゃあいつは上にいけないから、それを全否定して叩き直すのは俺の責任だ」という思いが蜷川氏にはあった。

 一般社会であれば「ハラスメント」とも取られかねない激しい言葉が時には飛び出したが、「蜷川さんって本当は無口。家では声が小さいし。彼にとって稽古場は戦場なんでしょうね、人生の大半を稽古場で過ごしているわけだし。家族と一緒にいるより稽古場にいる方が長い」。それだけのエネルギーを注ぎ込めるのは「欲が深いってことじゃないですかね、表現に対して」。

 源氏は「蜷川さんは自分で本は書かない。純粋な演出家なんですよ。戯曲は残るじゃないですか。でも蜷川さんが演出した作品は舞台が終わったら消えてなくなる。今まで作品集のDVDとかあるんだけど、メッセージを自分の口で語っていなかったし、頭の中を今のうちにのぞいておこうと思った」と今回のドキュメンタリーに込めた思いを口にした。

 蜷川氏自身の取材はもちろん、宮沢りえ(42)、藤原、吉田鋼太郎(56)、石橋蓮司(74)、市村正親(66)、大竹しのぶ(58)ら蜷川氏と濃密な時間を共有してきた俳優へのインタビューも数多く撮影(登場順)。「蜷川幸雄が残した言葉」を語る。大竹はナレーションも担当する。

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2016年1月1日のニュース