オリジナルフィルム破棄も…よみがえった黒沢明の名作

[ 2008年11月28日 08:31 ]

 古い映画のフィルムをデジタル技術で復元し、劇場公開する動きが広がりつつある。角川映画は黒沢明監督の「羅生門」を、映画の本場・米国ハリウッドを巻き込んで修復し、東京などで公開。往年の名作を完成時さながらの迫力で観客に届ける新たな試みとなる。

 「羅生門」は1950年に公開された、黒沢監督の代表作の1つ。ベネチア国際映画祭で最高賞、米アカデミー賞で名誉賞を受け、黒沢映画が国際的に評価されるきっかけとなった。この名作を角川映画は、米アカデミーなどの助成金を受け、ハリウッドの民間会社に作業を委託して復元。「羅生門 デジタル完全版」として29日から12月12日まで東京・角川シネマ新宿で公開するほか、年明けに大阪市(1月10日から梅田ガーデンシネマ)でも上映する。
 「羅生門」はオリジナルのネガフィルムが現存せず、復元は困難を伴った。公開当時のフィルムは可燃性で自然発火の危険があり、フィルムを資産とみなす価値観もなく、廃棄されてしまったためだ。
 復元は、劣化が進んだ上映用のポジなど2種類のフィルムを素材に行われた。宮川一夫カメラマンが保管していたオリジナルネガの未使用部分のフィルムで、白と黒の階調を確認するなど試行錯誤で、画像と音声を公開時の水準に近づけた。
 監修に当たった東京国立近代美術館フィルムセンターのとちぎあきら主任研究員によると、映画をDVD化するデジタル復元は広く普及しているものの、劇場公開用のフィルムに置き換えるには高い解像度での作業が求められ、多額の費用と手間がかかる。
 だが米国では90年代から、古い名作をデジタル復元で再公開する動きが進み、フランスでも「映画遺産は自国の誇り」とする意識から、名作映画の収集と保管、復元が定着しているという。
 日本では2004年に角川映画とフィルムセンターが「新・平家物語」を劇場公開用に復元。松竹もデジタル復元した「砂の器」を05年、「二十四の瞳」を07年に劇場で上映。「砂の器」は公開直前に野村芳太郎監督が死去したことも重なり、約5700万円の興行収入を上げた。
 松竹は今後、別の作品のデジタル復元を検討する。松竹映像本部の五十嵐真さんは「映画は一企業の資産であると同時に、国の文化的資産でもあり、後世に伝える意義がある」とした上で、ビジネスとして成立させることも視野に入れる。
 とちぎさんは「映画産業が強い米国は、旧作も消費する成熟した市場があるが、ハリウッドに劣らない技術は日本にもある。『羅生門』の劇場公開は大きな一歩」と、名作映画再生の動きの広がりに期待を寄せる。

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┃  =ルビ情報=

▽黒沢明(くろさわ・あきら)
▽宮川一夫(みやがわ・かずお)
▽野村芳太郎(のむら・よしたろう)
▽五十嵐真(いがらし・すなお)

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┃  =編注情報=

 末尾編注情報:筆者は上野敦(うえの・あつし)文化部記者▽大阪市での上映は1月10日から梅田ガーデンシネマ

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2008年11月28日のニュース