【内田雅也の追球】監督あがりの「番頭」

[ 2025年11月7日 08:00 ]

ヘッドコーチ就任が決まり、会見する和田豊氏
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 和田豊が阪神監督として指揮を執った最後の試合は東京ドームだった。シーズン3位で臨んだクライマックスシリーズ(CS)ファーストステージ。相手は同2位の巨人。2015年10月12日、1勝1敗の第3戦に敗れ、敗退が決まった。

 すでに退任と新監督として金本知憲招へいが表面化していた。会見を終えて歩き、駐車場でバスに乗り込む寸前、こちらを向き「やっぱり」と言った。「やっぱり負けたら悔しい……」。辞めることは決まっていても勝利への炎は燃えていた。

 監督を退いた後、背広組でシニアアドバイザー(SA)、テクニカルアドバイザー(TA)として阪神に居残り続けた。

 あの「やっぱり」と背広も着るという姿勢が情熱と猛虎への愛情を物語る。だから監督・藤川球児は今回、ヘッドコーチに呼んだのだろう。

 和田は口にはしないが「もう一度、監督に」との思いを秘めていたのではないだろうか。阪神は松木謙治郎や若林忠志に始まり、藤本定義、後藤次男、吉田義男、村山実、金田正泰、岡田彰布……と監督のセカンドチャンスが多い球団である。

 ただし、そんな夢や野心を奥底にしまい込める勤勉さと誠実さを持ち合わせている。元監督というプライドも見えない。

 監督・岡田彰布の下で2軍監督、今年は藤川の下、1・2軍打撃巡回コーディネーターとなり、職務に忠実だった。藤川はもちろん打撃コーチも立て、黒子に徹した。

 ヘッドコーチは大将を支えるという意味で番頭にたとえられる。先に名が出た金田は野心家で、監督・村山の下でヘッドに就いたが「指揮権返上」に追い込み、自身は2度目の監督に就いた。

 藤川が重んじる「組織力」で重要なのは<番頭のような二番手>だと、哲学者・鷲田清一の『しんがりの思想』(角川新書)にある。<ナンバー2が権力欲を持たずに、しかも余裕とユーモアを持ってまとめていく能力があったら、その集団は決して崩れない>。

 岡田が監督の時にヘッドを務めた平田勝男がまさにこの手の番頭だった。自身も監督候補だったが、岡田を蹴落として自分が……などと考えない。常に寄り添っていた。和田も同様である。

 2軍監督の平田とヘッドの和田。名番頭2人が支える「トロイカ体制」で球団初の連覇に挑もうとしていた。 =敬称略= (編集委員)

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