一塁へのヘッドスライディングは「審判殺し」 元NPB審判員記者が解説「ベテランでも…」

[ 2024年8月8日 19:21 ]

第106回全国高校野球選手権大会第2日 ( 2024年8月8日    甲子園 )

<札幌日大・京都国際>初回、適時内野安打を放った京都国際・高岸(撮影・岸 良祐)
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 第106回全国高校野球選手権大会が7日、甲子園球場で開幕した。100周年の節目を迎えた聖地において守備ではダイビングキャッチ、攻撃では内野ゴロを放った打者走者が一塁にヘッドスライディングするなど球児たちはハッスルプレーを見せている。

 執念を感じさせる一塁へのヘッドスライディングは高校野球で多く見られる光景だが、一塁塁審にとっては「天敵」ともいえる存在だ。元NPB審判員の記者が審判技術の観点から解説する。

 一塁のフォースアウトの判定基準は「ボールが先か、走者が先か」というシンプルなものだが、奥はずっとずっと深い。私が審判員になりたてのころは一塁で起きたフォースプレーの全体像を見て「アウト!」「セーフ!」の判断を下していたが、ミスジャッジが頻発。判定精度が上がらない原因は視点にあった。

 目の焦点は1箇所にしか合わない。よって一塁手の「捕球」と打者走者の「一塁到達」を同時に見ることはできない。同時に見ようとされば微妙なズレが生じ、一瞬の見極めができなくなるのだ。自分で「判定が合っている」と思ってジャッジしても、試合後に映像などで確認すると間違っている。悪い結果が重なれば自分を信じ切れなくなり、判定の精度は落ち続ける負のスパイラルに突入する。泥沼のような状況だった当時、チャレンジしたのが目と耳でジャッジする方法だった。

 打者走者がベースを踏んだ音、一塁手がボールを捕球する音は明確に違う。これを判断材料にする。さらに視覚で一塁手の触塁、打者走者の一塁到達などを確認。現役のNPB審判員の多くがこの方法でジャッジしている。五感のうち2つを駆使する方法を試すと自分でも驚くほど判定精度が上がった。1シーズン通してほとんど一塁の判定を間違いない年もあった。

 6年間のNPB審判員生活で一塁のフォースプレーに関しては判定に自信を持つことができたが、ヘッドスライディングだけは苦手だった。打者走者が一塁を踏む音がないからだ。手でベースをタッチするときはほぼ無音。これが打者走者の一塁到達タイミングを見誤らせる。ヘッドスライディングが来たときは一塁塁審は「音中心」から全体像を見極めることに切り替える。これがヘッドスライディングが一塁の判定精度を低下させる理由だ。

 日本シリーズに何度も出場した名審判員に「一塁にヘッドスライディングされたときの対処法はありますか?」と聞いたことがある。先輩は言った。「ただヘッドスライディングが来ないよう祈るだけ」。規則も熟知し、経験を元にあらゆる審判技術を知っているベテランにとってもヘッドスライディングは「天敵」であった。

 プロ野球は年々、映像による判定検証の範囲を広げている。アマチュア球界においても、いずれ機械の力を借りるタイミングが来るだろう。(元NPB審判員、アマチュア野球担当キャップ・柳内 遼平)

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