【内田雅也の追球】「一発」「投手」のバント

[ 2024年4月10日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神1-0広島 ( 2024年4月9日    甲子園 )

<神・広>5回、村上は送りバントを決める(撮影・後藤 大輝)
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 阪神監督・岡田彰布は評論家時代、何度も「バントが一発で決まると何となく点が入りそうな気がするもんなあ」と話していた。

 同じ送りバントでもファウル、ファウルと失敗して、ようやくスリーバントで送った場合と、第1ストライクで決めた場合では、後者の方が適時打を呼ぶというのだ。

 何も犠打の際、カウント別に統計を取って調べたわけではない。あくまでも長年の経験と勘からくる予感である。「何となく」なのだ。ただし、この「何となく」という勘が勝負では物を言う。

 この夜1―0で勝ちきった阪神はそんな「一発」で決めた送りバントが虎の子の1点を生んだ。

 0―0の5回裏。先頭の木浪聖也が右前打で出塁。続く投手・村上頌樹が初球で送りバントを投前に転がして送った。責任を果たし、ベンチに引き上げる村上を岡田は笑顔と拍手で迎えていた。

 1死二塁となり、近本光司が右翼線にライナーの適時打を放って、先取点を奪ったのである。

 村上は近本とともに上ったお立ち台でバントを決めた後「打つだろうなあと思って見ていました」と話した。犠打―適時打のリズムを「何となく」感じていたのだ。

 優勝した昨季、よく見られた8番・木浪が出て、近本や中野拓夢が還すという得点パターンである。これを支えていたのが、9番に入る投手のバントだった。

 昨季、阪神の犠打106個はDeNAと並びセ・リーグで2番目に多かった。うち投手が33個(約31%)を決めていた。

 ただ、今季はなかなか投手にバントで送らせる機会がなかった。今季初めて投手に犠打がついたのは先のヤクルト戦(神宮)。5日の5回表無死二塁で青柳晃洋が送ると中野が適時打で還した。7日は3回表無死一塁で才木浩人が送ると近本が右中間三塁打を放った。

 村上の犠打は今季投手陣で3個目で、3度とも得点につながっている。得意の得点パターンがようやく顔を見せ始めた。

 そしてプロの「何となく」という直感は大体が正しい。プロ棋士・羽生善治も『決断力』(角川書店)で<直感によってパッと一目見て「これが一番いいだろう」と閃(ひらめ)いた手のほぼ七割は正しい選択をしている>と明かしている。

 「守りの野球」の岡田にとって1―0は一つの理想。今季初、100周年を迎える甲子園での快勝だった。 =敬称略= (編集委員)

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