【内田雅也の追球】長丁場を見すえる大局観

[ 2024年3月25日 08:00 ]

オープン戦   阪神2-5オリックス ( 2024年3月24日    京セラD )

<オ・神>7回途中、降板する島本(右)(撮影・大森 寛明)
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 2―1と1点リードの7回裏1死、阪神監督・岡田彰布はベンチを出て、4番手投手に島本浩也を告げた。宗佑磨、森友哉と左打者が続く局面で必勝継投に出たのだ。本番並みの采配である。

 必勝と書いたのは何も大げさではない。昨年、リーグ優勝を決めた9月14日時点で、6回終了時にリードした試合は実に61勝4敗3分け、勝率9割3分8厘と圧倒的だった。前半でリードを奪い、継投で逃げ切る。逆転を許さぬ手堅い試合運びを岡田自身「強いチームの試合は面白くないもの」と語っていた。かつてのJFKを思わせる得意の継投策だった。

 オープン戦最終戦で、そんな必勝継投に出たのか、と見守った。ところが、島本は3連打に暴投で逆転を許し降板。敗戦投手となった。

 さらに8回裏に起用した石井大智も四球から3安打を浴びて2失点。昨年救援陣の功労者たちの調子が上がってこない。

 試合後、岡田は不調を承知の上で、あえて起用したと明かした。「オープン戦ずっと悪い島本、石井やなあ。悪いからもう、優先的に投げさせたんやけどなあ。やっぱそのままや」。不安は消えないままだった。

 打撃陣も近本光司、大山悠輔、森下翔太の主軸がそれぞれ体調不良から先発出場できないまま、オープン戦を終えた。投手陣でも特に救援陣の編成に頭を痛める。

 「まあな」と次善策は頭にある。「ブルペンは9人連れていく。最初は1人2人は外れる。調子が悪い者を抜いてな。全員が調子良くても全員は使われへん。当然ええもんから使こうていくわけやからな、悪いもんはその間に調子を上げる」

 キャンプ、オープン戦中、2軍降格を命じた選手に岡田は「今は調子が悪いから落とした。いずれ調子を上げてくれればいい」とやさしかった。大切な戦力を切って捨てるようなことはしない。

 継投は好不調を見極めながらやりくりする。開幕ダッシュなど虫のいい絵空事を描きはしない。長いシーズンを見通す大局観が岡田にはある。

 大局観についてプロ棋士・羽生善治は<多くの経験から培われる>とその名も『大局観』(角川新書)に記している。<その人の本質的な性格や考え方がとても反映されやすい><経験を積めば積むほど「大局観」の精度は上がっていく>。

 性格と経験か。66歳、岡田の出番である。 =敬称略= (編集委員)

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