【内田雅也の追球】「まっすぐ」を「前で打て」

[ 2023年10月29日 08:00 ]

SMBC日本シリーズ2023第1戦   阪神8ー0オリックス ( 2023年10月28日    京セラD )

5回、山本から右前打を放つ木浪(撮影・北條 貴史)
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 阪神が難敵・山本由伸を攻略したのは、いわゆる「岡田打法」だった。4点を奪った5回表に放った長短5安打のうち4本が直球を打ったもの。監督・岡田彰布が事前に明かしていた「まっすぐを打て」である。

 岡田は23日、甲子園での練習後、第1戦先発が予想された山本について「怖ないよ。そんなすごい投手か」と話していた。何も挑発しているわけではなく、シーズン中も幾度か聞いた話だった。
 狙い球も「まっすぐよ」と明かしていた。現役時代に実践してきた姿勢である。たとえば落差の大きなフォークが武器だった「大魔神」佐々木主浩(当時横浜)に強かった。「まっすぐ狙いよ。フォークは打つ球じゃない。誰もフォークの打ち方なんて教えてくれんし練習もできん」

 岡田は元より選手に難しい要求をしない。今回の指示も「まっすぐを打て」とシンプルだった。それは「フォークを見逃せ」ということになる。

 2巡目を迎えたあの5回表、佐藤輝明も渡辺諒も木浪聖也も近本光司も皆、追い込まれる前に直球を打ちに出て、安打を連ねたのだった。

 加えて、岡田の打撃理論は「前で打て」が根底にあり、浸透している。あの4本の安打も打球はすべて中堅より引っ張った方向に飛んでいた。

 山本は同じ速球でもカット気味、シュート気味……とボールが小さく動く。引きつけて打ってはボテボテのゴロになる。

 <「動くボール」は前で打て>と、大リーガーにもアドバイスするプロウト(プロのシロウト)、お股ニキが『セイバーメトリクスの落とし穴』(光文社新書)で書いていた。<動くボールは変化する時間が短く、変化量も小さいのだから動く前に手前で捌(さば)いてしまうのもひとつの考え方だ>

 岡田が昨年秋に就任した当初、65歳という高齢で、15年ぶりの阪神監督とあって「令和の時代に昭和の野球」などという声も聞かれた。トラックマンやホークアイで分析し、ビッグデータを利用する現代野球について、岡田は「しかし、野球の本質は昔も今も変わらんよ」と話していた。

 快勝後のベンチ裏、「オレはまっすぐを打て、としか言ってない」「フォーク打つ練習なんかできん」……と、もう30年以上前の大魔神の時と同じ話を報道陣に披露していた。信念が正解だったことを結果が証明していた。 =敬称略= (編集委員)

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