【内田雅也の追球】「マジック」を求めて

[ 2023年10月28日 08:00 ]

京セラドームの通路に掲示されている仰木彬氏の名言
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 京セラドーム大阪の一塁側スタンド通路には歴代のオリックスや近鉄の野球人が残した名言が掲示されている。日本シリーズ開幕前日。公式練習の合間にのぞいた。

 仰木彬の言葉がある。近鉄監督だった1989年、胴上げ後に発した「私の手で選手一人一人を胴上げしてやりたい」。人情味にあふれている。

 今回のシリーズは両監督ともオリックスでの現役時代、仰木の下でプレーしていたという共通点がある。

 阪神監督・岡田彰布にとっては恩師と呼べる存在だ。阪神を1993年限りで自由契約となり、仰木が手を差し伸べてオリックスに入団した。

 阪神・淡路大震災の95年、「がんばろうKOBE」を合言葉に優勝。当時の正捕手がオリックス監督・中嶋聡だった。

 仰木の采配は毎日のように打順を組み替えるなど、適材適所の用兵に妙味があった。西鉄時代の監督、三原脩の「魔術」になぞらえ「仰木マジック」と呼ばれた。

 岡田は「日替わりメンバーには根拠があった。正解だったと結果で示した」と学んでいた。中嶋は当時「猫の目打線」のただ中にいた。

 では今、監督としての用兵はどうか。レギュラーシーズン143試合のオーダーは阪神が69通りと12球団で最も少なかった。オリックスはロッテ142、日本ハム141通りに次ぐ135通りと好対照を描く。中嶋の方が仰木流を踏襲しているようだが、実は岡田にも仰木流が潜んでいる。

 仰木はマジックとは何かについて<データからくる予測と、データでは割り切れない人間的な部分の二つを合わせたもの>と著書『勝てるには理由がある。』(集英社)に記している。データの読み方として、10打数無安打なら「そろそろヒットが出る頃かな」という起用もあると書いた。

 岡田も同じように「そろそろ」と読んでの起用をしてきた実績がある。

 それは<直感>や<ひらめき>であり、<野球人生の中で経験したことの集積>とある。過酷といわれる監督業とは人生をかけた、全人格的な勝負なのだ。それがマジックの正体である。

 夕方、雷雨に見舞われた大阪も夜には十三夜の月が浮かんでいた。満月を前に、やや欠けた月を愛でる。その不完全さは人間らしく、失敗の多い野球に通じている。天から仰木が見つめている気がした。 =敬称略= (編集委員)

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